すぐ近ちかくのタバコ屋やにある公こう眾しゅう電でん話わから、コナンは毛もう利り探たん偵てい事じ務む所しょに電でん話わをかけた。
『ええっ、阿あ部べのアリバイが崩くずれたぁ!? ほ、本ほん當とうですか、目め暮ぐれ警けい部ぶ殿どの!?』
受じゅ話わ器きの向むこうから、喜よろこびと驚おどろきで三さん割わり増ましになっている小こ五ご郞ろうの聲こえが聞きこえた。コナンは蝶ちょうネクタイ型がた変へん聲せい機きを使つかって、目め暮ぐれ警けい部ぶの聲こわ色いろでそれに答こたえた。
「ああ…今いま、空くう港こうに向むかっている途と中ちゅうだ!! 君きみにも証しょう言げんしてほしい事ことがあるんだが、すぐ來こられるかね?」
小こ五ご郞ろうが二ふたつ返へん事じを返かえしつつ、蘭らんに出でかけることを伝つたえているのが聞きこえた。
「そうか! では、空くう港こうで待まっとるぞ!!」
話はなしを済すませてから受じゅ話わ器きを置おき、また受じゅ話わ器きを取とって別べつの番ばん號ごうをかける。
「よーし、次つぎはおっちゃんの聲こえで… あ、どうも、目め暮ぐれ警けい部ぶ殿どの!! 毛もう利り小こ五ご郎ろうです」
聲こえと口く調ちょうがころころ変かわる不ふ思し議ぎな少しょう年ねんに、タバコ屋やのおばちゃんは「?」と首くびを傾かしげていた。
二に時じ間かん後ご、小こ五ご郞ろう、蘭らん、そしてコナンは成なり田た空くう港こうに到とう著ちゃくしていた。
「いいか! 邪じゃ魔まだけはするんじゃねーぞ!!」
「「はーい!」」
「──ったく、毎まい回かい毎まい回かいついて來きやがって…」
ぶつぶつ言いいながら國こく際さいターミナルを進すすむ。夜よるにもかかわらず、いや夜よるだからこそ、空くう港こうはたくさんの乗じょう客きゃくであふれていた。
「しかし、混こんでるな──…こりゃー、警けい部ぶ達たちを探さがすのは一ひと苦く労ろうだぞ…」
コナンは腕うで時ど計けいで時じ間かんを確かく認にんする。
(やべ──もうすぐ搭とう乗じょう手て続つづきが始はじまっちまう…。しかたない、ちょっと危き険けんだけど、奴やつを誘さそい出だすか!!)
一いっ方ぽうその頃ころ、阿あ部べ豊ゆたかはターミナルの一いっ角かくで立たったまま新しん聞ぶんを広ひろげ、搭とう乗じょう手て続つづきが始はじまるまでの時じ間かんをつぶしていた。
その時とき、スピーカーから女じょ性せいのアナウンスが流ながれた。
『お客きゃく様さまのお呼よび出だしを申もうし上あげます…。シアトル行いき、99便びん搭とう乗じょう予よ定ていの阿あ部べ豊ゆたか様さま…。空くう港こう正しょう面めんの駐ちゅう車しゃ場じょうで、根ね岸ぎし正まさ樹き様さまがお待まちかねです…』
(!?)
あまりに驚おどろいて新しん聞ぶんを床ゆかに落おとしてしまった阿あ部べの頭ず上じょうに『くり返かえし申もうし上あげます…』とアナウンスが続つづいた。
小こ五ご郞ろうと蘭らんがスタッフカウンターで待まっていると、向むこうから警けい官かん隊たいを引ひき連つれた目め暮ぐれ警けい部ぶが走はしって來きた。
「おお! 毛もう利り君くん、待またせたな!」
「それより警けい部ぶ、何なんだったんですか? 奴やつのアリバイを崩くずした決きめ手てとは?」
「それは、君きみが見みつけたんだろ?」
「え?」
どうにも話はなしがかみ合あわない。二人ふたりがポカンと見みつめ合あっていると、蘭らんはいつの間まにかコナンがいなくなっていることに気き付づいた。
「あれ? コナン君くんは…?」
空くう港こう正しょう面めん、駐ちゅう車しゃ場じょう。阿あ部べ豊ゆたかはアナウンスで言いわれた通とおりの場ば所しょにやって來きていた。人ひと通どおりはない。陽ひは完かん全ぜんに沈しずんでいたが、空そらには満まん月げつが浮うかんでおり、停とまっている車くるまをぼんやり照てらしていた。
阿あ部べがキョロキョロと神しん経けい質しつそうに首くびを振ふりながら歩あるいていると、突とつ然ぜん斜ななめ後うしろの方ほうから聲こえが聞きこえた。
「うまい事こと考かんがえたね、おじさん…。根ね岸ぎしさんが死しんだのは、本ほん當とうは、火か曜ようの夜よるなんでしょ?」
「!? だ、誰だれだ!?」
そちらを向むくが、車くるまが並ならんでいるだけだった。
「そう…。おじさんが旅りょ行こうに出でかける前まえの日ひだ。そして次つぎの日ひ、根ね岸ぎしさんそっくりな偽にせ者ものを、毛もう利り探たん偵ていに尾つけさせた。根ね岸ぎしさんが水すい曜よう日びまで生いきていたと思おもわせるためにね…」
阿あ部べは車くるまの間あいだをすり抜ぬけて奧おくに入はいる。誰だれもいない。
すると、今こん度どは反はん対たい側がわの車くるまの列れつから、同おなじ聲こえが聞きこえた。
「そして、あらかじめ祭まつりの日にち時じを調しらべていたおじさんの計けい畫かくどおり、死し體たいは木もく曜ようの夕ゆう方がたに発はっ見けんされる…。矢や倉ぐらの火ひで燃もえた死し體たいからは、死し亡ぼう推すい定てい時じ刻こくがわりだせず、結けっ局きょく、毛もう利り探たん偵ていの証しょう言げんから、死しんだのは水すい曜ようの夜よるから木もく曜ようの夕ゆう方がたという事ことになった…」
汗あせをダラダラ流ながしながら慌あわてて來きた道みちを戻もどる。月つき明あかりに照てらされて、ぼんやりとした人ひと影かげが見みえた。奧おくの車くるまのボンネットに誰だれかが座すわっている。
「そして、おじさんは金きん曜ようの夜よる、なにくわぬ顔かおで旅りょ行こうから帰かえって來きた…。これでアリバイ成せい立りつだ!!」
車くるまに近ちかづくと、人ひと影かげが徐じょ々じょにハッキリしてくる。その人ひと影かげが、急きゅうに明あかるい聲こえで言いった。
「どお? 當あたってた?」
そこにいたのは、メガネをかけた、半はんズボンの──子こ供どもだった。
(こ、子こ供ども!?)
「さっき、そこにいた刑けい事じさんが、事じ件けんの事こと話はなしてたんだ! それで、ボクなりに推すい理りしてみたんだけど…」
コナンはボンネットから飛とび降おりて阿あ部べの前まえに立たった。
「根ね岸ぎしさんの代だい役やくに選えらんだ人ひとは、失しっ敗ぱいだったね…。探たん偵ていさんはうまくだませたかもしれないけど、寫しゃ真しんは、だませないよ。あの人ひとは、根ね岸ぎしさんとちがって、左ひだり利ききだったんだ…」
毛もう利り探たん偵てい事じ務む所しょで寫しゃ真しんを見みていた時とき、コナンが気き付づいたのがこのことだった。屋や臺たいの前まえでラーメンを食たべている寫しゃ真しんでは、箸はしを持もつ手ては左ひだり手てだった。しかし銀ぎん行こうで書しょ類るいを書かいている寫しゃ真しんでは、ペンを持もっているのは右みぎ手てだったのだ。
阿あ部べの顔かおを見み上あげながら、コナンは告つげた。
「自じ首しゅしなよ…。刑けい事じさん、いっぱい來きてるしさ…」
棒ぼう立だちのままコナンを見みつめていた阿あ部べは、やがて「ふ…」と聲こえをもらし、そして大おお聲ごえで笑わらい出だした。
「ハッハッハッ!! えらいぞ、ボウヤ!! 名めい推すい理りだ!!」
しゃがみ込こみ、笑え顔がおのままコナンの頭あたまをなでる。
「確たしかに、根ね岸ぎし正まさ樹きを殺ころしたのは、私わたしだ…この阿あ部べ豊ゆたかだよ…。だが、私わたしは自じ首しゅはせんぞ!! 外がい國こくで、のんびり暮くらすんだ…」
「え──、でも、ボク、おじさんが白はく狀じょうした事こといっちゃうよ!!」
「フ…、誰だれも信しんじてはくれないよ。子こ供どものいった事ことなんて…」
阿あ部べは、もう話はなしは済すんだとばかりに立たち上あがり、コナンに背せを向むけた。コナンはポケットに手てを差さし込こみながら言いう。
「でもね、おじさん…、おじさんの言こと葉ばなら、信しんじてくれるでしょ?」
立たち去さろうとした阿あ部べの背はい後ごで、コナンではない聲こえが聞きこえた。
『確たしかに、根ね岸ぎし正まさ樹きを殺ころしたのは、私わたしだ…この阿あ部べ豊ゆたかだよ…』
驚おどろきに目めを見み開ひらいた阿あ部べが振ふり返かえると、そこにはボイスレコーダーを手てにしたコナンがいた。
一いっ瞬しゅんで理り性せいを失うしなった阿あ部べは、持もっていた紙かみ袋ぶくろを投なげ捨すててコナンの方ほうに突とっ進しんした。
「なめるなよクソガキ きさまにわかるか!? 倒とう産さん寸すん前ぜんの會かい社しゃの社しゃ長ちょうの気き持もちが!?」
不ふ意いを突つかれたコナンが動うごけずにいるうちに、阿あ部べは両りょう手てでコナンの首くびをつかみ、ぎゅうぎゅうに絞しめ上あげた。コナンの顔かおが苦く痛つうにゆがむ。
「ハハハハ…だまされる方ほうが悪わるいんだよ 私わたしの口くち車ぐるまにのって、疑うたがいもせずあんな保ほ険けんに入はいった奴やつがバカだったんだ!! 殺ころされるとも知しらずになぁ」
その時とき、コナンは自じ分ぶんの首くびを絞しめていた阿あ部べの手てに思おもいっきりかみついた!
「つっ!」
阿あ部べは反はん射しゃ的てきにコナンをふりほどく。小しょう學がく一いち年ねん生せいの小ちいさな體からだは簡かん単たんに吹ふき飛とび、車くるまの背はい面めんに取とり付つけられたスペアタイヤにぶつかって地じ面めんに転ころがった。タイヤのゴムが衝しょう撃げきを吸きゅう収しゅうしたためにそれほどの痛いたみはなかった。
頬ほおについた泥どろをぬぐいながら立たち上あがると、両りょう手てを広ひろげた阿あ部べの姿すがたが見みえた。
「そして、わざわざ私わたしに殺ころされに來きたおまえもバカな奴やつだ…!」
阿あ部べは今こん度どこそ逃にがすまいと、コナンに向むかって突とっ進しんしてきた。
その時とき、さっきの衝しょう撃げきで固こ定てい具ぐが外はずれ、スペアタイヤが地じ面めんに落らっ下かしてコナンと阿あ部べの間あいだにごろごろと転ころがってきた。
(ケッ…バカなのは、あんたの方ほうだ…。素す直なおに自じ首しゅすりゃ、許ゆるしてやろーと思おもったが…)
コナンはひざを折おって左ひだり足あしを持もち上あげ、博士はかせにもらったキック力りょく増ぞう強きょうシューズのダイヤルをカチカチと回まわした。シューズがぼんやりと光ひかり出だす。
(もー、かんべんできねー!! その腐くさったノーテン、──)
左ひだり足あしを大おおきく構かまえて、目めの前まえに転ころがっているタイヤを思おもいっきり蹴けり飛とばした。
(──たたき直なおしてやるぜ)
ゴオオオンッ!
タイヤは一いっ直ちょく線せんに阿あ部べの顔かおに激げき突とつし、彼かれのメガネを吹ふき飛とばした。
數すう分ふん後ご、小こ五ご郞ろうと目め暮ぐれ警けい部ぶたちが騒さわぎを聞ききつけて駐ちゅう車しゃ場じょうにやってくると、そこには白しろ目めをむいて気き絶ぜつしている阿あ部べ豊ゆたかと、その上うえに置おかれたボイスレコーダーがあるだけだった。
「誰だれがこんな事ことを…?」
目め暮ぐれ警けい部ぶが首くびをひねる中なか、リピート設せっ定ていされたボイスレコーダーは、満まん月げつの下したで阿あ部べの自じ白はくを繰くり返かえしていた。
『確たしかに、根ね岸ぎし正まさ樹きを殺ころしたのは、私わたしだ…この阿あ部べ豊ゆたかだよ…』
數すう日じつ後ご、毛もう利り探たん偵てい事じ務む所しょでは小こ五ご郞ろうが事じ件けんの事ことを思おもい返かえしていた。
「──ったく、アリバイ作づくりにオレを利り用ようするとは、ふてー野や郎ろうだ…」
「でもよかったね!! 根ね岸ぎしさんの偽にせ者もの、見みつかったんでしょ?」
笑え顔がおの蘭らんに小こ五ご郞ろうは「ああ…」と返かえす。
「阿あ部べに頼たのまれて、何なにも知しらされずにあのカッコで、一いち日にち中じゅううろついていたらしい…」
事じ件けんは無ぶ事じに解かい決けつした。しかし、小こ五ご郞ろうには一いっ個こだけ納なっ得とくできないことがあった。
「しかし気きになるのは、あの後あと、奴やつがいったあのセリフ…」
気き絶ぜつから目め覚ざめた阿あ部べは、目め暮ぐれ警けい部ぶに連れん行こうされながら、こう叫さけんだのだ。
「ガ、ガキにやられた!!」
小こ五ご郞ろうは事じ務む所しょのすみにちらりと視し線せんを向むける。
「あの辺へんにいたガキといえば…」
「ま…まさか…」
小こ五ご郞ろうにつられて蘭らんもそちらを見みた。
夕ゆう方がたのアニメを流ながしているTVテレビの前まえで、遊あそび疲つかれてしまったのか、コナンは小ちいさくいびきをかきながら、眠ねむっていた。
その寢ね顔がおを見みて蘭らんが微笑ほほえむ。
「まさかねえ…」