とこのままでいられるとも思えない。きっとこれから、あがくんだと思う。だから、ぼくを正志郎氏と同じ者のように考えて、油斷しないほうがいいと思うよ」 ふうん、と辰巳は呟く。 「室井さんは面白いな。……沙子の言っていた通り」 「きみと沙子は対等なのかい?」 「ぼくは単なる下男ですよ。狼男ってのは吸血鬼の使い魔ですからね」 「きみが誰かに使われている、というのも妙な気がするな。沙子が君たちの中でいちばん偉いように見えるのも、考えてみれば不思議な話だね」 「実績の問題ですね。沙子は生き殘る術を知ってるんです。自分の身の安全を自分の才覚で得ることができる。我々にとって、それは最も重要なことです。眠って目を覚ますためにさえ、徹底に遮光された空間が必要なんですから。それを手に入れることは想像するほど簡単なことではないんですよ。間違いなく安全な寢場所を自分の手で得る才覚のない者は、慘痛な死を迎えることになる。けれども沙子は安全に生きる術に通曉していて、人間や人間のシステムを最大限、有効に使う手を知っている。沙子は安全をくれます。実際、ほとんどの屍鬼は沙子の庇護を離れたら生きていけない。そのことをみんな分かっているんですよ」 「そうか……」 「ぼくが沙子に対して馴れ馴れしいのは、それだけ付き合いが長いから」 「長いのかい?」 とても、とだけ辰巳は答えた。 [#ここから5字下げ] 2 [#ここで字下げ終わり] 尾崎孝江は庭に薄煙が漂っているのを見て、庭に出た。煙の地點を探して、土手道沿いの裡庭に廻ると、敏夫が屈み込んで紙を燃やしている。 「どうしたの。駄目じゃないの、こんなに空気が乾いているのに」 村はもともと秋口から冬場にかけて乾燥する所だが、本年はそれがひどかった。消防団からもつい先日、焚き火に留意してくれと回覧が來たばかりだった。 「いやですよ、火事なんか出したら何て言われるか」 小言を言いかけて、孝江は言葉をとぎらせた。うっそりと屈み込んだ敏夫の膝先に積まれている書類の束は、明らかにカルテだった。 「おまえ――それはカルテじゃないの?」 孝江は病院のことに疎いが、それでもカルテが簡単に処分してはならないものであることぐらいは知っている。敏夫も死んだ夫もこんなふうに庭で焼き捨てていたことなど、一度もない。 「いいんだ」と、敏夫は呟いて、炎の中に新たに書類を放り込む。「【神都猛虎/贅婿當道】嶽風柳萱小說(全部!免費)閱讀
小說簡介
嶽母:好女婿,求求你別離開我女兒……
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