奈良ならのシカ山裡やまざとへ 公園こうえんの観光かんこう客減きゃくへり 餌えさもらえず
樹木じゅもくや苗木なえぎ農業のうぎょう被害ひがいも
観光かんこう名所めいしょの奈良なら公園こうえん(奈良市ならし)周辺しゅうへんにいるシカが、減へっている。餌えさの鹿しかせんべいを與あたえていたインバウンド(訪日ほうにち外國人がいこくじん)が新型しんがたコロナウイルスの感染かんせん拡大かくだいによって激減げきげんしたのが一因いちいんとみられる。餌えさを求もとめて周辺しゅうへんに移動いどうしたシカによる農業のうぎょう被害ひがいなども懸念けねんされている。
観光名所の奈良公園(奈良市)周辺にいる鹿が、減っている。餌の鹿煎餅與えていたインバウンド(訪日外國人)が新型コロナウイルスの感染拡大によって激減したのが一因と見られる。餌を求めて周辺に移動した鹿による農業被害なども懸念されている。
「餌えさを求もとめて歩あるき回まわるシカの數かずが明あきらかに減へった」。奈良なら公こう園內えんないの茶屋ちゃやの擔當者たんとうしゃはこう話す。店みせの周辺しゅうへんを縄張なわばりにしている頭數とうすうに変化へんかはないが、縄張なわばりの外から來て観光客かんこうきゃくに餌えさをねだるシカは、秋に入っても戻もどってきていないと感じるという。
「餌を求めて歩き回る鹿の數が明らかに減った」。奈良公園內の茶屋の擔當者にこう話す。店の周辺を縄張りにしている頭數に変化はないが、縄張りの外から來て観光客に餌をねだる鹿は、秋に入っても戻って來ていないと感じるという。
北海道大ほっかいどうだいの研究室けんきゅうしつと「奈良ならの鹿しか愛護會あいごかい」は1月から、晝ひると夜に奈良公園の平地へいち(約1.2平方へいほうキロメートル)にいるシカの頭數とうすうや性別せいべつを毎月まいつき調査ちょうさ。6月の調査ちょうさでは晝ひる697頭とう、夜よる484頭とうで、感染かんせん拡大前かくだいまえの1月の調査ちょうさ(晝998頭とう、夜784頭)と比較ひかくすると晝は約3割わり、夜は約4割減少げんしょうした。
北海道大の研究室と「奈良の鹿愛護會」は1月から、晝と夜に奈良公園の平地(約1.2平方キロメートル)にいる鹿の頭數や性別を毎月調査。6月の調査では晝697頭、夜484頭で、感染拡大前の1月の調査(晝998頭、夜784頭)と比較すると晝は約3割、夜は約4割減少した。
シカは冬場ふゆばを森林しんりんで過すごし、初夏しょかにかけて平地へいちに出でてくる習性しゅうせいがあるが、今年は6月になっても平地のシカは増ふえなかった。7月以降いこう、出しゅっ産後さんごに鹿しか苑そので保護ほごしていた親子おやこ335頭とうが園內えんないに放はなたれた。9月の調査ちょうさでは晝1129頭とう、夜899頭と1月の數字すうじを上回うわまわったが、まだ例年れいねんより少すくないという。
鹿は冬場を森林で過ごし、初夏にかけて平地に出てくる習性があるが、今年は6月になっても平地の鹿は増えなかった。7月以降、出産後に鹿苑で保護していた親子335頭が園內に放たれた。9月の調査では晝1129頭、夜899頭と1月の數字を上回ったが、まだ例年より少ないという。
調査ちょうさをしている北海道大ほっかいどうだいの立沢たちざわ史郎しろう助教じょきょうは、コロナ禍かで観光客かんこうきゃくが激減げきげんし、公園こうえん周辺しゅうへんで鹿しかせんべいなどの供給量きょうきゅうりょうが減へった結果けっか、シカが自然しぜんの餌えさを求もとめて周辺しゅうへんの山さん間部かんぶなどに移動いどうしたとみている。
調査をしている北海道大の立沢史郎助教は、コロナ禍で観光客が激減し、公園周辺で鹿煎餅などの供給量が減った結果、鹿が自然の餌を求めて周辺の山間部などに移動したと見ている。
市しが発表はっぴょうした推計すいけいでは、緊急きんきゅう事態じたい宣言せんげん期間きかん(4月16日~5月14日)の公園こうえん周辺しゅうへんの観光客かんこうきゃくは前年比ぜんねんひで95%減げん。市しの擔當者たんとうしゃによると、宣言せんげん解除後かいじょごは回復かいふく基調きちょうにあり、9月の4連休れんきゅうには以前いぜんのにぎわいが戻もどった印象いんしょうだが、「平日へいじつはインバウンドが大半たいはんだったため、月つき全體ぜんたいでみれば人出ひとではまだ前年ぜんねんに及およばない」という。
市が発表した推計では、緊急事態宣言期間(4月16日~5月14日)の公園周辺の観光客は前年比で95%減。市の擔當者によると、宣言解除後は回復基調にあり、9月の4連休には以前のにぎわいが戻った印象だが、「平日はインバウンドが大半だったため、月全體でみれば人出はまだ前年に及ばない」という。
シカの移動いどうによる農業のうぎょう被害ひがいも出ている。奈良なら公園こうえんの北側きたがわで造園業ぞうえんぎょうを営いとなむ秋田あきた安志やすしさんは「今年になって被害ひがいが増ふえた」と語かたる。栽培さいばいしている庭用にわようの樹木じゅもく、苗木なえぎが葉はや枝えだを食たべられて売うり物ものにならなくなるなど、被害ひがい額がくは既すでに數百萬円すうひゃくまんえんに上のぼる。
鹿の移動による農業被害も出ている。奈良公園の北側で造園業を営む秋田安志さんは「今年になって被害が増えた」と語る。栽培していいる庭用の樹木、苗木が葉や枝を食べられて売り物にならなくなるなど、被害額はすでに數百萬円に上る。
鹿害しかがい阻止そし農家のうか組合くみあい(同市どうし)によると、被害ひがいは市內しないで拡大かくだいしており、中田なかだ武たけ文ふみ組合長くみあいちょうは「これまでは夜間やかんの被害ひがいが目立めだったが、奈良なら公園こうえんから移動いどうしてきたと思われるシカは人に慣なれ、日中にっちゅうも畑はたけに侵入しんにゅうしてくる。柵さくで防ふせぐしかない」と話す。
鹿害阻止農家組合(同市)によると、被害は市內で拡大しており、中田武文組合長は「これまでは夜間の被害が目立ったが、奈良公園から移動してきたと思われる鹿は人に慣れ、日中も畑に侵入してくる。柵で防ぐしかない」と話す。
⇒補足ほそくする
公園こうえん周辺しゅうへんのシカは重要じゅうような観光かんこう資源しげんでもある。奈良県ならけんの擔當者たんとうしゃは「野生やせいのシカと觸ふれ合えるのは世界的せかいてきにみても珍めずらしい。公園こうえんであまり姿すがたが見られなくなると、観光にも影響えいきょうが出かねない」と懸念けねんしている。
これに対して、北海道大ほっかいどうだいの立沢たちざわ助教じょきょうは、「人間とシカの付つき合い方を見直みなおす契機けいきにすべきだ」と指摘してきする。コロナ前は軟やわらかい狀態じょうたいのフンが多く、観光客かんこうきゃくの餌えさの與あたえ方かたによって本來ほんらい必要ひつような反はんすうの時間を奪うばわれたり、ストレスを感じたりして健康けんこうが悪化あっかしていた可能性かのうせいがあるという。
公園周辺の鹿が重要な観光資源でもある。奈良県の擔當者は「野生の鹿と觸れ合えるのは世界的に見ても珍しい。公園であまり姿がみわれなくなると、観光にも影響が出かねない」と懸念している。これに対して、北海道大の立沢助教は、「人間と鹿の付き合い方を見直す契機にすべきだ」と指摘する。コロナ前は柔らかい狀態のフンが多く、観光客の餌の與え方によって本來必要な反するの時間を奪われたり、ストレスを感じたりして健康が悪化していた可能性があるという。
立沢たちざわ助教じょきょうは「鹿しかせんべいの與え方、量りょうや頻度ひんどを考え、シカに負擔ふたんをかけない工夫くふうも必要ひつよう」と話している。
立沢助教は「鹿煎餅の與えた方、量や頻度を考え、鹿に負擔をかけない工夫も必要」と話している。
(高橋たかはし直也なおや)
(日本にほん経済けいざい新聞しんぶん 夕刊 2020/10/21 )