「新経済」とは、中國語で「ニューエコノミー」という意味を表す。
「中國新経済」の大きな特徴は、経済活動において最も信用が必要とされる「決済」が起點となっている點だ。スマートフォン(スマホ)にインストールされたオンライン決済アプリをプラットフォームに、過去になかった新しいタイプのビジネスが次々に生まれ、巨大なエコシステム(生態系)が形成されている。
オンライン決済の先駆的存在が、中國電子商取引(EC)最大手のアリババが手掛ける第三者決済サービス「アリペイ(支付寶)」だ。
信用スコア上げるためにさらに使う2000年代前半、クレジットカードが普及していなかった中國において、アリババが自らリスクを取り、未払いや詐欺を防ぐために取引を仲介することで、ネット上の取引の安全性、すなわち「信用」を擔保した。
アリペイは、自社のECサイト「タオバオ(淘寶網)」の成長に大きく貢獻したが、これによりアリババが得た副産物はさらに大きかった。取り引きごとに蓄積されていく莫大な量の「データ」である。
アリババは今、信用を擔保したことで得た信用データを用いて新たなサービスを開発し、獨自の金融サービスと結びつけることで、若者を中心としたユーザーの囲い込みを行っている。
その信用サービスが、アリババ傘下の金融サービス會社「アント・フィナンシャル」(以下「アント」と略稱)が提供する「芝麻(ジーマ)信用」である。
「芝麻信用」とは、アリペイなどの使用狀況や、過去の返済記録などのほかに、學歴や職歴、資産狀況や交友関係などの個人情報をもとに信用スコアが算出されるサービスだ。高得點のユーザーはさまざまな特典を受けることができる。
例えば、信用スコアが一定基準を超えると、借家やホテル、レンタカー、シェア自転車などのデポジットが不要になったり、消費者金融でお金が借りやすくなったりする。高い信用スコアがあれば、一部の國のビザも取得しやすくなる。
信用スコアを上げるポイントの一つが、アントが提供するさまざまな金融サービスをよく使うこと。そのため積極的に、クレジット決済を利用したり、金融商品を購入したりする若者が増えている。
新サービスで変わる若者の消費行動アントのクレジット決済サービス「ホワベイ(花唄)」も信用スコアが関係している。利用の可否は「芝麻信用」のスコアを基にシステムが自動的に評価、判斷する。クレジット限度額もスコアが影響するため、ユーザーごとに異なる。
ホワベイのメインユーザーは「90後」(1990年代生まれ)の若者だ。同社が公表した「2017年若者消費生活報告」によると、90後の登録者は4500萬人を超え、全體の約47.3%に達している。
ホワベイは消費意欲が高い若者たちの衝動買いも促している。
20代の大學生たちに話を聞くと、「買い物しても銀行口座內の金額が変わらないので、お金を持っているという錯覚に陥る」「この無利子のローンを使わないと損した気分になる」という。結局、ついついお金を使ってしまうそうだ。
消費が拡大する一方で心配されるのがローンの不良債権化だが、若者の延滯率は高くない。前出の「報告」によると、90後のホワベイ利用者の99%が期限內に返済しているという。身分証番號を使い実名登録しているホワベイでの延滯は、自身の信用記録に悪影響をもたらすためだ。その意味において、ホワベイは若者世代の信用意識を高めているといえるだろう。
一方、アリペイをベースとしたオンライン投資商品が「ユィウバオ(餘額寶)」だ。
餘額寶は比較的高い収益性や流動性、利便性といった魅力を兼ね備えている。ユーザーは銀行口座から餘額寶のアカウントに直接入金するか、アリペイ経由で資金を移動するだけで利用できる。即日の購入・解約が可能で、少額(1元)からでも気軽に投資できる。時期によって若干異なるが、運用利回りは銀行の1年物定期預金より約1〜3%高く、毎日支払われる。
パソコンやスマートフォンから簡単に投資できることが受け、若年層を中心にユーザー數が急拡大。2018年第4四半期には5.8億人に達している(天弘餘額寶2018年次レポート)。
「三方よし」のビジネスモデルこれらの金融サービスは、若者たちの金融リテラシーを高めるのにも一役買っているようだ。
私が指導する學生の多くが、ホワベイとユアバオを同時に使いこなすことで金利収入を得ている。ホワベイは、実際に利用した月の翌月10日までに一括返済すれば無利子である。だから何かを購入するときも、現金ではなくホワベイを利用し、それと同じ額の現金を返済するまでの期間、ユアバオで運用しているのだ。
個人ユーザーにとってみれば、ホワベイとユアバオを使って金利収入を得ると同時に、芝麻信用のスコアのアップにもつながり、より多くの特典を受けることができる。
アリババグループ以外の外部企業にとっても、芝麻信用を利用することは信用リスクを抑えることができるため、積極的に利用されるようになっているようだ。
アント・フィナンシャルにとっては、多くの個人データが集まり、信用評価に関する分析精度も高まる上に、自社のビジネスの拡大につながる。
まさに「三方よし」のモデルができあがっていると言えよう。
このような好循環の中、新経済エコシステムは急速に拡大している。次々と誕生するニュービジネスは、すべてキャッシュレス決済を前提に設計されており、決済プラットフォームには多くの情報が集まっている。
一方で、「個人情報は一切提供したくない」と考える中國人も一部はいるかもしれない。現時點でもすでにスマホがないと不便な社會となってきているが、今後さらにキャッシュレス化が進むと、これらの層の人々が生活しにくい世の中となってしまう可能性も否定できない。
そして今、信用社會の実現を目指す中國政府は、これら民間企業が集めた信用情報を利用し始めている。