ファーストリテイリングは今期(22年8月期)、グローバルな成長を加速する。感染拡大を抑え込みながら経済活動が再開するのに合わせ、アジアだけでなく、歐米でも出店を拡大する。「ライフウェア=究極の普段著」を全世界のファッションのデファクトスタンダード(事実上の業界標準)にするため、サプライチェーンをさらに高度化し、グローバルな生産と販売のプラットフォーム最適化を急ぐ。柳井正會長兼社長に聞いた。
「サステイナビリティーは社會の一番の関心事」と話す柳井正氏
一國では完結せず21年8月期は増収増益。コロナ禍は続いているが、今後は主力のアジアのほか、歐米市場でもチャンスがあると見る。
世界中で生産し、販売する我々の選択肢はむしろ広がっていると思います。今後は歐米でも積極的に出店し、ECも広げる。アジアが成長エンジンなのは変わりませんが、アメリカは3億人、ヨーロッパも8億人の人口があり、市場も大きい。ライフウェアを全世界でデファクトスタンダードにしていきたい。
當社は原材料の調達から紡績、縫製、配送までエンド・トゥ・エンドで行い、デジタルの技術を使ってどの市場にも最適の方法でお客様に商品を屆けている。世界中のお客様の聲を聞いて商品を作っている。誰もが今著たいと思うベーシックで高品質な服が低価格で買える。そういう新しい産業を作ってきた。
歐米では現地の有力美術館と提攜し、協業商品も作って文化面で交流し、難民支援など社會貢獻にも本気で取り組んできた。これらの積み重ねで「メイド・フォー・オール」、良い服をリーズナブルに全ての人に提供し、生活をより良くしたいという我々の考え方が伝わり、ユニクロは歐米でも世界水準の服と認められ、売れています。
21年は米中対立をきっかけに、人権問題への姿勢がファッションビジネスにも厳しく問われた。
米中対立など表層的には世界のデカップリング(分斷)が起こっていると見えますが、一つの國の中だけで経済を完結させるなんてもはやできっこない。どの國もわかっている。個人も國も経済も全てがつながり、それは元には戻らない。かねてから言ってきた通り、新しい世界に完全に変わった。
売った後も責任負う新しい世界では地球環境や人権問題なども含め、サステイナビリティー(持続可能性)が一番の関心事になった。環境が保全され、社會が安定的に存続することが重要で、社會があってその中にファッション産業が存在する。我々もお客様も皆がその順序で物事を考えるのが當たり前になったんです。
21年12月、企業の成長とサステイナビリティーを両立させる仕組みを作る構想を発表した。
世の中で今一番求められているのは、社會や地球環境が保全され、続くことです。そのための努力は企業運営の大前提。今後、個別の取り組みの進捗(しんちょく)を數値化、可視化し、包括的な形でリポートでも発信します。原材料に関しても綿花ならどこの農家がどの農地で作ったのかまで全部わかるようにする。
使用済み衣料を回収後にリサイクルし、再利用する取り組みも強化します。企畫、生産し、お客様の手に屆くまではサプライチェーンのいわば動脈ですが、今後は回収して再利用する靜脈も整備する。売った後、最後まで責任を取る方法を具體的に考え、お客様に提示する必要があると考えています。一足飛びにはできないが、サプライチェーンを循環型に進化させたい。