【今日のお題:ごみ分類&中國の豆知識[連載]ポスト・コロナ時代はどうなる? 中國の「あるある」[Vol.5] 】「新しい日常」は「ポスト・コロナ時代」の「新常態(ニューニュートラル)」として定著していくのでしょうか。それとも疫病が終息を迎えれば、何ごとも無かったかのように再び「古い日常」が戻ってくるのでしょうか―――。本連載では、外國人が時として違和感を持ちがちな中國の「あるある」をピックアップしながら、中國に関する「豆知識」を紹介していきます。
「うなぎ文」という俗稱で知られる構文をご存じでしょうか。レストラン等で「君は何を注文するんだ」と尋ねられたとき、「僕はうなぎを注文するよ」というべきところを「僕はうなぎだ」と答えることが往々にしてあります。それがいつしか、言語學者によって「うなぎ文」と名付けられるようになったのだそうです。
そんな「うなぎ文」を彷彿させる中國語のフレーズが、ネットでホットな話題として取り上げられ始めたのは昨年夏のことです。「你是什麼垃圾?ーーあなたは何ごみ?」。事の発端は昨年7月1日から施行された「上海市生活ゴミ管理條例」。上海でごみ分別が義務化され、分別せずにごみを捨てた人には個人で最高200元、法人なら5萬元の罰金が科されることになったことによります。
この條例の施行を受けて、居住エリアに設置されたごみボックスの前には、「居住委員會」と呼ばれる行政機関のメンバーが住民のごみ捨ての狀況を見回り、分別方法についてアドバイスを行うことになりました。その際に、メンバーが開口一番に発する言葉が「你是什麼垃圾?」――「あなたは何ごみ?」だったのです。別に罵り言葉として受け止める必要はありませんが、何度も言われ続けると心にダメージを受けてしまいそうです。
當時のごみ分別の狀況については、當微信公眾號「Heynanaco」でもレポートさせていただいていますが(疾風怒濤の「強制ゴミ分別」――「上海シンドローム」傾向と対策!)、同様の規制が5月1日からついに首都・北京でも実施されるようになっています。ただ、上海では「溼ったごみ」「乾いたごみ」「有害ごみ」「可回収物」という名稱が使われたのに対して、北京では「廚餘垃圾」(生ごみ・殘飯)、「可回收物」(リサイクル)、「有害垃圾」(有害物)、「其他垃圾」(その他のごみ)というように、若干異なる呼稱が採用されています。
上海でごみ分別が強制化された際は、スイカの種や貓砂、あるいは化粧品等をどのように分類するかといった素樸な疑問がネット上であふれ返りました。分別方法をいかにわかりやすく伝えるべきか、さまざまな人が知恵をめぐらしたと見え、映畫『チャイニーズオデッセイ』(大話西遊)」や『クレヨンしんちゃん』の登場人物が語るセリフをネタにしたパロディ動畫、子どもたちに人気の「ペッパピッグ」のキャラクターを使ってごみ分類のノウハウを解説した畫像等が拡散しました。
おそらく最も分かりやすかったのは、豚を例にした解説でしょう。「溼ごみ」=豚が食べられるもの、「乾ごみ」=豚が食べられないもの、「有害ごみ」=豚が食べて死んでしまうもの、「可回収物」=売ったカネで豚肉を買えるもの――というわけです。
ごみ分別について解説した情報がネットであふれかえるのは、ごみ分別の強制が中國の人びとにとってあまりに衝撃的なことだったからです。ちょっと前まで家庭ごみは丸ごと一つの袋に入れて投げ出しても差し支えないものでした。しかも365日24時間いつでも捨てることができました。ところが、突然住宅エリアの空き地にごみボックスが出現してかと思えば、ごみ捨ての時間が制限され、厳しい監視の目にさらされることになったわけですから驚天動地の思いとなるのも無理なことはありません。
さらに、フードデリバリーでは使い捨てのレンゲ、ナイフ、フォーク等が、宿泊施設では歯ブラシやクシ等が、それぞれ消費者のリクエストなくしては店舗側も提供ができなくなっています。深セン情報サイト「ShenzhenFan」によると、そんなごみ分別の強制や関連規制に戸惑った挙げ句、ドローンを使って近隣住民の家にごみを投げ入れたり、ごみ分別に自信が持てず、上海への出張や旅行を取りやめるといった奇聞・珍聞も見られたようです。
なお、こうした中國の人びとを惑わせ悩ませる「ごみ分別」を導入する都市は、今年末までに46都市に及ぶとされています
急激なごみ分別強制化を全國に普及させるうえで牽引力となるのが、他でもないテクノロジーの力です。たとえば、捨てようと思うゴミをスマホで寫真に撮ると分別名が自動的に表示される分別アシスタントアプリや、深センファンによると深センでは「小黃狗」と呼ばれるスマートゴミ回収裝置が登場してすでに久しくなります。
あるいは、アプリから予約を行い、住民に代わってゴミを分別処理してくれる代行サービスも登場しています。あるいは自動運転による清掃等でビジネスモデルを構築していく動きも見られているようです。
かつて中國では、ごみを拾う子どもがいたら母親が叱りつけるという光景さえ珍しくありませんでした。それだけに、ごみのポイ捨てをする若者が減り、ごみ分別が浸透していく現象は感無量という気がします。中國人が「環境先進國」と褒め稱える日本の東京でさえ、1964年に五輪が開催される以前は、無造作にごみが道端に放り出されるのは日常茶飯事だったと言われます。それゆえ中國も変わるときは急激に変わる、一気に変わる、ダイナミックに変わるのは想定內のこととして見なしたほうが良さそうです。中國が「環境先進國」となる日もそう遠い未來のことではないかも知れません。
(文・耕雲)
☆【中國の豆知識】☆
ごみの分別は昨年7月に上海で義務化されたのを皮切りに、全國に急速に広がろうとしています。中國は2020年までに全國の46都市に導入する計畫で、2035年までに生活ごみ分類処理制度を全面的に構築する目標に掲げています。(2017年3月:國務院弁公庁「國家発展改革委員會と住宅都市農村建設部の生活ごみ分類制度実施方案」)
ちなみに、北京では5月1日から「北京市生活ごみ管理條例」が施行され、法執行強化キャンペーンが7月末まで行われます。関連報道によると、ごみ分類に問題があるとされ都市管理法執行機関から指導や警告を受けたり是正を命じられた企業や組織は、6月初頭時點で2,450以上にのぼっていると言われています。
★北京では、ごみは「廚餘垃圾」(生ごみ・殘飯)、「可回收物」(リサイクル)、「有害垃圾」(有害物)、「其他垃圾」(その他のごみ)と4つに分類されています。
★使い終えたマスクは、ポリ袋に入れ、密封したうえで「その他のごみ」として捨てます。