【10月28日の日本の昔話】たのきゅう

2021-02-28 日語學習 假名標註

むかしむかし、あるところに、たのきゅうという旅たびの役者やくしゃがいました。
 お母かあさんが病気びょうきだという手紙てがみがきたので、大急おおいそぎで戻もどる途中とちゅうです。
 ところが、ある山やまのふもとまで來くると、日が暮くれてしまいました。
 すると茶店ちゃみせのおばあさんが、たのきゅうに言いいました。
「およしなさい。この山やまには大おおきなヘビがいるから、夜よるは危あぶないよ」
 でもたのきゅうは病気びょうきのお母かあさんが心配しんぱいなので、山やまへ登のぼっていきました。
 そして峠とうげでひと休やすみしていると、白髪のおじいさんが出でてきて言いいました。
「お前まえさんは、だれだ?」
「わしは、たのきゅうという者ものじゃ」
 だけどおじいさんは、『たのきゅう』を『たぬき』と聞きき間違まちがえました。
「たぬきか。たぬきなら、化ばけるのがうまいだろ。さあ、化ばけてみろ。わしは大ヘビだ。わしも化ばけているんだ」
 大ヘビと聞きいて、たのきゅうはびっくり。
「さあ、はやく化ばけてみろ。それとも、化ばけるのが下手へたなのか?」
 怖こわさのあまりブルブルとふるえていたたのきゅうですが、大ヘビに下手へたと言いわれて役者やくしゃ魂たましいに火ひがつきました。
「下手へた? このわしが下手へただと? よし、待まっていろ。いま、人間にんげんの女おんなに化ばけてやる」
 たのきゅうは荷物にもつの中なかから取とり出だした女おんなのかつらと著物きものを著きて、色いろっぽく踴おどって見みせました。
「ほほう、思おもったより上手じょうずじゃ」
と、おじいさんは、感心かんしんしました。
 そして、
「ときに、お前まえのきらいな物ものは、なんじゃ?」
と、聞ききました。
「わしのきらいなのは、お金かねだ。あんたのきらいな物ものは、何なんだね?」
「わしか? わしのきらいな物ものは、

タバコのヤニ(たばこの煙のうち、一酸化炭素やガス狀成分をのぞいた粒子狀の成分のこと)

カキのシブ柿渋(かきしぶ)は、渋柿の未熟な果実を粉砕、圧搾して得られた汁液を発酵・熟成させて得られる、赤褐色で半透明の液體。)だ。

これを體からだにつけられたら、しびれてしまうからな。さて、お前まえはたぬきだから助たすけてやるが、この事ことは決けっして人間にんげんに言いってはならんぞ。じゃ、今夜はこれで別わかれよう」
 そう言いったかと思おもうと、おじいさんの姿すがたは見みえなくなってしまいました。
「やれやれ、助たすかった」
 たのきゅうはホッとして山やまを下おり、ふもとに著ついたのはちょうど夜明よあけでした。

 たのきゅうは村人むらびとたちに、大ヘビから聞きいた話はなしをしました。
「と、言いうわけだから、タバコのヤニとカキのシブを集あつめて、大ヘビのほら穴あなに投なげ込こむといい。そうすれば大ヘビを退治たいじ出來できて、安心あんしんして暮くらせるというもんじゃ」
 それを聞きいて、村人むらびとたちは大喜よろこびです。
 さっそくタバコのヤニとカキのシブを出來できるだけたくさん集あつめて、大ヘビのほら穴あなに投なげ込こみました。
「うひゃーあ、こりゃあ、たまらねえ!」
 大ヘビは死しにものぐるいで隣となりの山やまに逃にげ出だして、なんとか命いのちだけは助たすかりました。
「きっと、あのたぬきのやつが、わしのきらいな物ものを人間にんげんどもにしゃベったにちがいない。おのれ、たぬきめ! どうするか覚おぼえてろ!」
 大ヘビは、カンカンになって怒おこりました。
 そしてたのきゅうが一番いちばんきらい物ぶつは、お金かねだという事ことを思おもい出だしました。
 そこで大ヘビはたくさんのお金かねを用意よういすると、たのきゅうの家いえを探さがして歩あるきました。
 そしてやっとたのきゅうの家いえを探さがし當あてたのですが、家いえの戸とがぴったりと閉しまっていて中には入いれません。
「さて、どうやって入はいろうか? ・・・うん?」
 そのとき大ヘビは、屋根やねにあるけむり出だし口くちを見みつけました。
「それっ、たぬきめ、思おもい知しれっ!」
 大ヘビは、けむり出だし口くちからお金かねを投なげ込こんでいきました。

 おかげでたのきゅうは大金たいきんを手てに入いれて、そのお金かねで良よい薬くすりを買かうことが出來できたので、お母かあさんの病気びょうきはすっかり治なおったと言いうことです。

おしまい

相關焦點

  • 【3月18日の日本の昔話】忠犬ハチ公
    臺だいの上うえに座すわって、じっと駅えきの改札かいさつ口ぐちを見みている犬いぬの銅像どうぞうです。 このお話はなしは、その銅像どうぞうになったハチ公こうのお話はなししです。 むかし、ハチ公こうは東京大學とうきょうだいがく農學部のうがくぶの教授きょうじゅだった上野うえの英三郎ひでさぶろうという博士はかせの家いえの飼かい犬いぬで、子犬こいぬの時ときに博士はかせの家いえにもらわれてきたのでした。 博士はかせはハチ公こうを大変たいへん可愛かわいがり、ハチ公こうも博士はかせが大好だいすきです。
  • 【1月20日の日本の昔話】まさかの話
    むかしむかし、吉四六(きっちょむ)さんと言いう、とてもゆかいな人がいました。
  • 【11月20日の日本の昔話】逃げた黒牛
    吉四六さんのおじさんは、立派りっぱな黒くろ牛うしを一頭とう持もっていました。 ある日ひ、その黒くろ牛うしを連つれて、吉四六さんのところへやって來きました。「吉四六、実じつは急用きゅうようで町まちへ行いく事ことになった。二に、三日で戻もどって來くるが、その留守るすの間あいだ、こいつを預あずかってくれないか?」「いいですよ。
  • 【2月28日の日本の昔話】クラゲのお使い
    むかしむかし、深ふかい海うみの底そこに竜宮りゅうぐうがありました。
  • 【2月11日の日本の昔話】笛の名人
    その頃ころ、都とでは集団しゅうだんの泥棒どろぼうがいて、人々ひとびとは大変たいへん困こまっていました。 ある晩ばんの事こと、博雅ひろまさの屋敷やしきにも集団しゅうだんの泥棒どろぼうが押おし入いりました。 泥棒どろぼうたちは手てに手てに、弓ゆみや、なぎなたを持もっています。「みんな、すぐに隠かくれるんだ! 見みつかっても決けっして抵抗ていこうはするな!」
  • 【9月28日の世界の昔話】天使
    その花は神さまの所へ持って行くと、地上にあった時よりもずっとずっときれいに咲くのです。 なかでも、神さまが特別にキスなさった花は、聲が出るようになって歌を歌うのです」「あれも、持って行きましょうね。そのわけは、飛びながら話してあげますよ」 こうして二人は、神さまのところに向かって飛んで行きました。 天使は飛びながら、女の子に話しました。
  • 【有聲日語】《家じゅうの人たちの言ったこと》
    今天給大家帶來的是日本文學作品《家じゅうの人たちの言ったこと》翻譯:三木桑希望你會喜歡~編輯|微光 · 朗讀|寺田 理恵子·音頻來源|青空朗讀家じゅうの人たちは、なんと言ったでしょうか? まずさいしょに、マリーちゃんの言ったことを聞きましょう。
  • 【2月23日の日本の昔話】拾った財布
    今頃いまごろきっと、青あおくなって探さがしているだろうよ」 親切しんせつな伝助でんすけは、わざわざ神田かんだまで行いって、ようやく吉五郎きちごろうの家いえを探さがし出だしました。「こんにちは。吉五郎きちごろうさん、いますか?」「ああ、おれが吉五郎きちごろうだが、何か用ようかね?」
  • 【7月7日の世界の昔話】天の川と七夕
    ある日ひの事こと、一匹の牛うしが主人しゅじんの牽牛けんぎゅうに言いいました。「ご主人しゅじんさま、南みなみの川かわに行いってごらんなさい。美うつくしい天女てんにょたちが水浴みずあびをしていますよ。もし、天女てんにょをお嫁よめさんにしたかったら、天女てんにょの羽衣はごろもを一いち枚まい取とり上あげるのです」「天女てんにょがお嫁よめさんか。
  • 【1月24日の日本の昔話】貧乏神と福の神
    働はたらき者ものの男おとこですが、いくら働はたらいても暮くらしはちっとも楽らくになりません。 それと言いうのも、実じつは男おとこの家いえには貧乏神びんぼうがみが住すみ著ついていたからです。 そんな男おとこに、村むらの人ひとたちが嫁よめの世話せわをしました。 この嫁よめは美人びじんな上うえに働はたらき者で、朝あさから晩ばんまで働はたらきます。
  • 【8月6日の日本の昔話】ネズミの名作
    この吉四六さんの村の莊屋(しょうや)さんときたら、大がつくほどの骨董(こっとう→価値のある古い美術品)好きです。  這個吉四六所居住的村的村長非常喜歡古董(有價值的古老的藝術品) 古くて珍しい物は、どんな物でも集めて、人が來ると見せては自慢していました。
  • 【8月26日の日本の昔話】佐渡二郎(さどじろう)と安壽姫(あんじゅひめ)の母
    むかしは日本でも、お金で人を売り買いしていたのです。  在以前的日本,只要有錢是連人口也可以進行買賣的。 ある日、この人買いが越後(えちご)の直江津(なおえつ)から、美しい奧方を連れてきました。  有一天,這個人販子從越後的直江津那帶回來了一個漂亮的夫人。
  • 【4月29日の日本の昔話】赤ちゃんの見分け方
    そこで名めい奉行ぶぎょうと名高なだかい大岡越前守おおおかえちぜんのかみのところへ相談そうだんに行いったのですが、さすがの越前えちぜんもこれはすぐに裁さばけません。「うむ。・・・必かならず裁さばきを付つけてやるから、三日みっか待まて」 越前えちぜんは時間じかん稼かせぎにそう言いったのですが、一いち日にち過すぎても、二日ふつか過すぎても、まったく分わかりません。
  • 【8月19日の日本の昔話】刀のごちそう
    むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。 很久很久以前,有一個以機智出名的叫一休的小和尚。
  • 【10月15日の日本の昔話】ふるやのもり
    むかしむかし、雨あめの降ふる暗くらい晩ばんの事こと、おじいさんが子こどもたちに話はなしを聞きかせていました。
  • 【12月28日の小話】借金取りのこうでん
    ある貧乏びんぼう長屋ながやに、たくさんの借金しゃっきんをかかえた夫婦ふうふがいました。
  • 【9月16日の日本の昔話】
    ある日ひの晩ばん、その男おとこのところへ白しろいひげのおじいさんがやってきました。「道みちに迷まよったので、一晩ひとばん泊とめてくだされ」「ああ、それはお困こまりでしょう。いいですとも。さあどうぞ」 男おとこは親切しんせつに、おじいさんを泊とめてやりました。 次つぎの日ひ、おじいさんは男おとこに小ちいさな石いしうすをくれました。
  • 【きょう長崎原爆の日】
    親族しんぞく2人が被爆ひばくしたという長崎ながさき市しの60歳さいの男性だんせいは「多おおくの人ひとがここで亡なくなったので長崎ながさきにとって、原爆げんばくの日ひは特別とくべつな日ひです。原爆げんばくは、つくったのも人間にんげん、なくすことができるのも人間にんげんで、原爆げんばくによる被害ひがいを忘わすれられないように伝つたえていくのは殘のこされた人間にんげんの使命しめいではないかと思おもいます」と話はなしていました。
  • 【1月4日の日本の昔話】なまけ者と貧乏神
    ある年としの暮くれの事こと、男おとこが空腹くうふくをがまんしながらいろりの橫よこで寢ねていると、天井てんじょう裡うらから何なにかが、 ズドン!と、落おちてきました。「なっ、何なんだ?」 男おとこがびっくりして飛とび起おきると、落おちてきたのはつぎはぎだらけの汚きたない著物きものを著きた貧相ひんそうなおじいさんでした。
  • 【12月22日の日本の昔話】 ブラブラたろう
    たろ助すけは、とてもなまけ者もので、仕事しごともしないで毎日まいにちプラプラ遊あそび暮くらしています。 今日きょうも朝あさからプラプラ遊あそんでいると、たろ助すけを呼よぶ聲こえがしました。「もしもし、たろ助どん」「うん? だれだ?」 聲こえのする方ほうを見みると、小ちいさなつぼがころがっています。「つぼか。