日本を訪おとずれる外國がいこく人じん旅行りょこう者しゃが増ふえ、來年らいねんには東京とうきょうオリンピック・パラリンピックの開催かいさいを控ひかえ、政府せいふは、訪日ほうにち外國がいこく人じん「年間ねんかん4000萬人にん」を目指めざしています。それとともに、外國がいこく人じんの忘わすれ物ものや落おとし物ものも多おおくなっています。旅行りょこう先さきで大切たいせつなものを落おとしてしまい、困こまっている外國がいこく人じんに安心あんしんしてもらおうという取とり組くみが進すすんでいます。キーワードは「おもてなしの心こころ」です。
「おもてなし」は、「もてなし」に丁寧語「お」を付けた言葉であり、その語源は「モノを持って成し遂げる」という意味です。また、「おもてなし」のもう一つの語源は「表裡なし」、つまり、表裡のない「心」でお客様をお迎えすることです。
増える訪日外國人
去年きょねん1年間ねんかんに、日本にっぽんを訪おとずれた外國がいこく人じん旅行りょこう者しゃの數かずは3000萬人にんを超こえ、7年ねん連続れんぞくで過去かこ最高さいこうを更新こうしんしています。それとともに増ふえているのが、日本にっぽんを訪おとずれる外國がいこく人じんの忘わすれ物ものや落おとし物ものです。
警察庁けいさつちょうによりますと、去年きょねん1年間ねんかんに全國ぜんこくの警察けいさつ署しょに屆とどけられた落おとし物ものの數かずは2950萬點てんで、統計とうけいを取とり始はじめた昭和しょうわ39年ねん以降いこう、最もっとも多おおくなっています。外國がいこく人じん旅行りょこう者しゃが増ふえていることもその理由りゆうにあるとみられています。
助かったという聲も
旅行りょこう先さきで困こまったことはないか観光かんこう客きゃくに聞きいてみると、大切たいせつなものを忘わすれてしまう経験けいけんがあるという聲こえが相次あいついで聞きかれました。
アメリカから観光で訪れた男性は、トイレに行っている間、カバンを置き忘れてしまったといいます。ただ、近くにいた男性がすぐに教えてくれたといいます。男性は「すばらしい、手厚い「おもてなし」だと思います」と話していました。
また、中國から來たという男性は、大型観光施設で、攜帯電話を2日連続で落としたそう。こちらもすぐにスタッフが見つけて戻ってきたということです。男性は「すばらしいと思います。中國だったら攜帯電話は戻ってきませんよ」と話していました。
鉄道會社も「おもてなしで」
困こまっている外國がいこく人じんに安心あんしんしてもらおうという取とり組くみは各地かくちで進すすんでいます。都內とないの地下鉄ちかてつを運行うんこうする東京とうきょうメトロでは、外國がいこく人じんの忘わすれ物ものや落おとし物ものとみられるものが屆とどけられるケースが多おおくなっています。
利用りよう客きゃくが多おおい上野うえの駅えきでは、外國がいこく人じんからの問とい合あわせが多おおいときには1日にちに100件けん以上いじょうも寄よせられています。大切たいせつなパスポートやかばんなどさまざまで、上野うえの駅えきでは、先月せんげつだけで27件けんを外國がいこく人じんに返卻へんきゃくしました。外國がいこく人じんに安心あんしんしてもらおうと、東京とうきょうメトロでは、毎朝まいあさの職員しょくいんの點呼てんこの際さい、ある取とり組くみを続つづけています。それが英語えいごの勉強べんきょう。
外國がいこく語ごを上手じょうずに話はなすことができない擔當たんとう者しゃもいるため、外國がいこく人じんから頻繁ひんぱんに尋たずねられるフレーズの回答かいとう例れいを紙かみに書かいて、繰くり返かえし覚おぼえています。たとえば忘わすれ物ものがどこに保管ほかんされているか尋たずねられた場合ばあい、「忘わすれ物ものはこの駅えきにあります」。また、落おとした可能かのう性せいが高たかい場所ばしょを伝つたえるため、「降車こうしゃ駅えきで尋たずねてください」といったフレーズを毎朝まいあさ、繰くり返かえしています。
東京とうきょうメトロでは、來年らいねんに向むけて、今後こんご、外國がいこく人じんの旅行りょこう者しゃに安心あんしんして相談そうだんしてもらえるよう対応たいおうをさらに進すすめたいとしています。東京とうきょうメトロ上野うえの駅えき務管區の井田いだ智晴區長くちょうは「お困こまりのお客様きゃくさまをより気持きもちよく案內あんないできるようにさまざまな言語げんご、ツールを使つかいながら対応たいおうしていきたい」と話はなしています。
保管場所に困る
外國がいこく人じん客きゃくの忘わすれ物ものが増ふえているのは、鉄道てつどう會社がいしゃだけではありません。ホテルも同おなじです。東京とうきょう・淺草あさくさにあるホテルでは、宿泊しゅくはく客きゃくのおよそ4割わりを外國がいこく人じんが佔しめています。
財布さいふや鍵かぎなどの貴重きちょう品ひん。それに衣類いるいやお土産みやげとみられるぬいぐるみ、いずれも部屋へやなどに殘のこされていた忘わすれ物ものです。中には捨すてていったとみられるスーツケースもありました。ホテルによりますと、外國がいこく人じんの忘わすれ物ものは去年きょねんの同おなじ時期じきに比くらべてことしはおよそ3割わりほど増ふえているということです。
ホテルにとって、負擔ふたんになっているのが保管ほかん場所ばしょです。客室きゃくしつに殘のこされた荷物にもつは一定いってい期間きかんの保管ほかん義務ぎむがあり、明あきらかに捨すてていったものも勝手かってに廃棄はいきできないということです。
ホテルでは、利用りよう客きゃくに連絡れんらくし、できるかぎり返卻へんきゃくする対応たいおうをしていますが、保管ほかんスペースの確保かくほや帰國きこくした利用りよう者しゃへの対応たいおうなどが大おおきな負擔ふたんになっているということです。
淺草あさくさビューホテル宿泊しゅくはく課かの土屋つちや善夫よしお支配人しはいにんは、「一刻いっこくも早はやくお客様きゃくさまに屆とどけたいという思おもいはありますが、なかなか具體ぐたい策さくが見みつかっていないのが現狀げんじょうです」と話はなしています。
注目 代行サービス
外國がいこく人じんの忘わすれ物もの・落おとし物ものをどうすればよいのか。ホテルなどに代かわって海外かいがいへ返送へんそうする會社かいしゃも登場とうじょうし、そのサービスに注目ちゅうもくが集あつまっています。
大阪おおさか市し西にし區くの物流ぶつりゅう會社がいしゃ「オー・エス・エス」は、全國ぜんこくのおよそ1000のホテルやレンタカー會社かいしゃと契約けいやくして、外國がいこく人じんの忘わすれ物ものを海外かいがいへ返送へんそうするサービスを提供ていきょうしています。
依頼いらい件數けんすうは、去年きょねん、月つきに300個こほどでしたが、ことしの同おなじ時期じきでは1200個こほどとおよそ4倍ばいに急増きゅうぞう。このため會社かいしゃでは毎日まいにちおよそ40個この忘わすれ物ものを海外かいがいに返送へんそうする作業さぎょうに追おわれているということです。
この會社かいしゃではまずホテルに、客きゃくと連絡れんらくをとってもらい、會社かいしゃ自體じたいを代理人だいりにんにすることに了解りょうかいをとってもらいます。そのうえで、ホテルから會社かいしゃに荷物にもつを送おくってもらいます。
そして受うけ取とった會社かいしゃでは荷物にもつを開あけて、引火いんかの危険きけんがあるスプレー缶かんなど発送はっそうできないものと、できるものに仕分しわけます。
郵送ゆうそう料金りょうきんはネット上じょうでクレジットカードで支払しはらってもらい、海外かいがいに國際こくさい郵便ゆうびんで発送はっそうする仕組しくみです。費用ひようは、スマートフォンなど重おもさ500グラムまでの場合ばあい、アジア圏けんならおよそ4000円えんほどで屆とどけることができるということです。
この會社かいしゃには、忘わすれ物ものが屆とどいた外國がいこく人じんから「日本の旅行りょこうの思おもい出でが帰かえってきました。ありがとう」とか「非常ひじょうに優すぐれたサービスです。また絶対ぜったいに日本を訪おとずれます」といった感謝かんしゃのメールが數多かずおおく寄よせられています。
社長しゃちょうの荒本あらもと修一しゅういちさんは、「日本に來きた外國がいこくのお客様きゃくさまに日本で忘わすれ物ものをしたら屆とどいたというすばらしい國くにだという印象いんしょうを広ひろげていきたい。オリンピックに向むけては本當ほんとうに増ふえてくると思おもうので、頑張がんばって対応たいおうしたいです」と意気込いきごんでいます。
國を挙げておもてなしの心
日本にっぽんのよさを海外かいがいに発信はっしんしている観光かんこう庁ちょう。10月じゅうがつに行おこなわれるG20観光かんこう大臣だいじん會合かいごうの関連かんれんイベントで外國がいこく人じんの忘わすれ物ものや落おとし物ものも課題かだいの一ひとつとして取とり上あげ、忘わすれ物ものを海外かいがいへ返送へんそうする事業じぎょうなどを紹介しょうかいしたいとしています。
國土こくど交通省こうつうしょう・観光かんこう庁ちょうの淺野あさの北鬥ほくと課長かちょう補佐ほさは、「忘わすれ物ものの課題かだいを解決かいけつする企業きぎょうや、それを求もとめる民間みんかんの事業じぎょう者しゃを結むすび付つけることで、よりよいおもてなしができる」と話はなしています。
「安心な日本」を感じてもらうために
ホテルやレンタカー會社かいしゃなど、外國がいこく人じんの忘わすれ物ものや落おとし物ものを抱かかえる會社かいしゃを複數ふくすう取材しゅざいしました。確たしかに困こまっているという聲こえもありましたが、いずれも「何なんとかしてあげたい」、「日本に來きてもらったのに嫌いやな気持きもちになってほしくない」という聲こえも多おおく聞きかれました。
來年らいねんには東京とうきょうオリンピック・パラリンピックの開催かいさいを控ひかえています。多おおくの外國がいこく人じん客きゃくに「おもてなしの心こころ」に觸ふれてもらい、「忘わすれ物ものや落おとし物ものが戻もどってくる、安心あんしんな日本」を體感たいかんしてもらえるよう対策たいさくが進すすむことを期待きたいしたいと感かんじました。