時空を超えたネガが語る、日本寫真家の30年前の「中國の旅」

2022-01-28 東方網日文版


 イギリスの詩人、ウィリアム·ブレイクの「無垢の予兆」Auguries of Innocence)という長編詩の冒頭の4行は、多くの人に知られている。「一粒の砂にも世界を/一輪の野の花にも天國を見、/君の掌のうちに無限を/一時のうちに永遠を握る」(松下正一訳)。そしてまたこの句は、寫真撮影について語るに、意外に適切ではないかとも思われるのだ。

 個展を「遙かなる餘韻」と名付けた理由について、日本の女性寫真家である広瀬明代氏は、「あの時、確かにそこにあった真実と感情。現像液に浮かび上がるイメージは、靜かに、優しく、確信をもたらす。遙かなる時の餘韻である。時空を超えたネガはようやく語り始めた」と、個展の小冊の前書きにこう書いている。

 1989年3月、つまり30年前、広瀬氏は35ミリレンズの著いた一眼レフを首から提げて、中國の北京、上海、広州の3都市を旅行した。そのとき撮った寫真の中の51枚を、「遙かなる餘韻」と題して、2019年の年末に上海で展示した。

常に首からカメラを提げている広瀬氏

 「この寫真展のことを新聞で知ったので、わざわざ見に來ました。カメラを持ってきてよかったです!」。來場者の女性は、上海語で嬉しそうに言った。なぜならさっき広瀬氏と記念寫真を撮ったからだ。そしてその記念撮影の後、広瀬氏はいつも首から提げているカメラを手に持ち、「あなたの寫真を撮ってもいいですか?」、と尋ねて、すぐにシャッターを押した。

 30年前にも広瀬氏は、このように中國の街を歩いていた普通の人々にレンズを向けて、笑顔の一瞬を捉えたのかもしれない。

 「スナップが好きだ。人や街が靜止した表情は、そこにある生活を物語るから」。

 こう考える広瀬氏は、當時の北京、上海、広州の街角で、おもちゃの鉄砲で遊ぶ子供、仕事を終えて建物から出てきた人々、ミシンのそばで微笑むおばあさん、平和飯店で出會った人々など、いろいろな人々の様子をフィルムに寫し摂った。

 これらの寫真は、今、30年後の上海の展示館で、靜かに昔の中國の都市生活を物語っている。

「停止線で止まる自転車」(上海)

 広瀬氏は當時を振り返って、「人が人に興味を持つ時代だった」、と思うそうだ。

 30年前の旅で北京から広州に向かった時、広瀬氏は寢臺車に乗った。そこで上海から出張したビジネスマン2人、アメリカ人の留學生1人と知り合いになり、楽しい時間を過ごしたという。実はその時、広瀬氏も同行の日本人3人も中國語を話せなかったが、筆談で交流できたそうだ。

 「非常に楽しかったです。今振り返てみると本當に不思議な感じです。列車が広州に到著して別れなければならなくなった時、自分が泣いたことを覚えています」、と言った。

 これは30年前の中國旅行で一番記憶に殘ったことだ。しかし、今の時代なら、列車に座って対面になっても、自分の攜帯を見つめて何の交流もせずに、目的地に到著することを待つのが普通だろう。

 寫真撮影もそうである。「(30年前に)寫真を撮っていると『あなたは何者?』『何をしているの?』、と言いたそうに、こちらを見る人が多かった。笑う人も怒鳴る人もいたし、何かを話しかけてくる人もいた。國も時代も違うけれど、今、東京で寫真を撮っていても、人は攜帯端末に視線を落としたままだ」、と広瀬氏は語る。

寫真を鑑賞する來場者

 1989年3月は中國にとっては「改革開放実施開始10周年」を意味し、日本では「平成時代の始まり」を意味する。その同じ時空にいた被寫體と寫真家であるが、時間の意味は両者では異なっていた。

 1989年は平成元年であり、広瀬氏が寫真家としてのキャリアを始めた年でもある。それに対して、今年2019年は、平成最後の年であり、寫真家としての30周年でもある。これに込められた特別な意味は、日本の年號とは縁のない中國人の來場者には、たぶんわからないだろう。

 展示されている寫真は51枚だけだが、広瀬氏はこの展示會のために約2年前から寫真選びや暗室作業を始めた。フォトプリンター1臺で自宅でも手軽に寫真を印刷するという簡単な寫真印刷とは違い、モノクロ寫真の暗室作業にはかなり時間がかかる。広瀬氏によると、いい寫真を印刷するには1〜2週間もかかる時もあり、操作を何回も繰り返す必要があるという。

 まさにその長い時間がかかる作業の中で、ネガにイメージが浮かびあがるにつれて、広瀬氏の心の中にしまい込まれていた30年前の記憶も、すこしずつ回復し始めた。人々の靜止した表情を通じて、あの時の自分の感情や考えを再確認することができた。そして辿り著いたのが、遙かなる時空の中の中國であり、遙かなる時空の中の広瀬明代氏の記憶なのである。

來場者が書いたコメント、「広瀬明代さんが上海に記憶を殘してくれてありがとうございます。」

相關焦點

  • 2019年ネットを賑わせたトピック総まとめ!「野狼disco」「田舎のスローライフ動畫」「これを買って」はなに?
    という素樸な疑問を投げかける動畫が瞬く間にネット上の話題をさらい、3月には、毎日上海の街中でゴミ拾いをするホームレスの沈巍さんがネット上で注目を集めた。あるネットユーザーは、「以前は上海の人が皆山に登り、水辺で遊んでいた時に、沈巍さんがゴミ分別をしてくれていたが、今は沈巍さんがあちこちを旅して、上海の人がみんなでゴミ分別をするようになった」とユーモラスなコメントを寄せている。
  • 【青春】中國の青春映畫 春が訪れた?
    多くのインターネットメディアの統計によると、「小時代」シリーズの観客の平均年齢は20.3歳、「致青春」は22.5歳だ。20歳前後の観客が増えるに伴い、映畫のストーリーも、同年代の若者が成長過程で経験したことに合わせた內容となり、「青春」をテーマにした作品が大幅に増加している。
  • 母の日に伝えよう!生んでくれてありがとうを
    娘が期末試験を受けるこの日、「娘が良い気分で試験に臨めるように」と、娘を想う母の心境を王さんは語った。 シャレっ気があってお母さんとは思えない…」と書き込んだ。キャプチャ畫像を見ると、確かに母親は、男性がダウンロードしてあげたスタンプを使って冗談を言うなど、とてもシャレている。例えば、「僕慌ててるぞ」、「そんなことしたら私に嫌われるわよ」、「私を好きになるのが怖いの?」など、流行りの言葉やスタンプを使っており、ネットユーザーらが注目。「お母さんは天才」との聲が上がっている。
  • 「僕がここに住む理由」で監督務める竹內亮さん「日中友好の前提となるのは相互理解」
    同作品は視聴者の視點からごく普通の人が異國の地で暮らすさまざまな様子を記録し、彼らが「そこに住む理由」に迫っている。 「南京に住む理由」を竹內さんに質問してみたところ、すぐに「妻」という答えが返ってきた。インタビューでは一貫して、中國語だけを使って答えてくれた竹內さん。やや日本人らしいなまりのある、ゆっくりとした話し方だったが、コミュニケーションに支障はない。
  • 「プルマン蘇州中恵ホテル」が開業いたしました.ビジネスとレジャーのお客様にハイテクで快適な環境をご提供します.
    中國だけでなく世界で急速に発展を遂げる高級ホテルブランド「プルマン」は、中國の第37軒目となるホテルを蘇州で盛大に開業したと発表しました。中庭に面したレストランでは、広東と蘇州の美食を提供しています。家庭の集まりやビジネスの會食には理想的な選択と言えるでしょう。また、モダンな日本式レストランもございます。
  • 【対訳】上海映畫祭の「日本映畫週間」が開幕
    今年は、日中文化交流協會の副會長を務めている慄原小巻が登場し、「映畫、芸術、文化の交流は、心と心のコミュニケーション。日中両國が平和と友情を築くための礎石の一つ」と語った。因為出演電影《望鄉》在中國走紅,1979年慄原首次來到中國。今年,她所率領的上海電影節日本代表團為中國觀眾帶來了《藝術大師》《裁縫》《謎一樣的他》《黎明的沙耶》等7部熱門新片。
  • 【絆】中國滯在25年の日本人外交官「中國の元抗日兵士と固い友情結ぶ」
    この興味がもとで、學校の図書館である日、戦前の日本の軍隊の中國侵略を記録した図録をめくった。図録の中の白黒寫真は瀬野少年にとってはショックだった。そこで日本の軍隊が中國でいったい何をしたのか、中國人は日本人をいかに考えているのかを考え始めた。その時から、瀬野氏は、いつか中國にわたり、この疑問を解き明かそうと決めていた。
  • 中國の人気ドラマ「延禧攻略」が2月に日本で放送 日本語タイトルが話題に
    そして、「延禧攻略」が2月から日本で正式に放送されることがこのほど明らかになった。日本で中國の大ヒットドラマが放送されるとなると、有料チャンネルでの放送がこれまでは多かったものの、今回は無料チャンネルで放送されるという點は注目に値する。
  • 中國版の「深夜食堂」が全くウケないその訳は?
    中國映畫・ドラマではリメイク作品ゆえに卻って失敗するということもしばしばだが、中國版「深夜食堂」の「失敗」は、リメイクの過程で問題があったというよりは、食文化やナイトライフ、情感といった面で中國と日本には大きな差があるからと見たほうがいいだろう。「食」に対する見方は、中國と日本で異なる。中國人は、おいしいものを食べることを、楽しみとみなし、その態度はある意味「熱狂的」とさえ言える。
  • 【にゃん】日本、「ネコブーム」が巻き起こり「ネコ型社會」へ突入
    そして、ネコカフェやネコ本専門店、ネコ畫展、ネコの駅、ネコ島などが続々と登場している。ある日本の學者は、「ネコノミクス」という概念も考え出した。日本人は昔からネコに対して特別な思いを抱いており、日本で再びネコブームが起きていることについて、日本では國を挙げて精神的な「ネコ型社會」に突入したと分析する聲もある。
  • <北京のお気に入り> まるで北京の動物園-三裡屯南街エリア
    表現による自由は制約されているはずなのに、みんな好きなことをやって、獨特な文化があり、自由な感じを受けます。政治に興味を持っている人も多く、みんな自分の意見を持っています。北京は自由な感じがすると言うと、中國人には、「俺らは家を買っても、70年で権利がなくなるし、車だって自由に買えない。
  • 【現実】ドラマ「重版出來!」を通して見る日本の漫畫界
    日本の春ドラマで、「ダークホース」となった「重版出來!」は、松田奈緒子による漫畫を原作とし、新人女性漫畫編集者・黒沢心を主人公に、漫畫家を支える編集者の仕事を描いている。その元気良さと畫面からあふれんばかりのプラスのエネルギーで、決して景気がいいとは言えない出版業界にスポットを當て、中國の情報コミュニティサイト・豆瓣では、今年の日本ドラマとしては最高の9.1ポイントを獲得している。 「重版出來!」はコミカルで新人を勵ますだけのドラマと言う人は、腳本の能力を過小評価している。
  • 【父の日】いつもは言えない「ありがとう」を、贈ろう
    「時の流れがこんなにも早いとは思ってもみなかった。あっという間に大學3年生、父はこんなにも歳を取っている」。自分と父親の寫真を整理している時、大連海事大學の冷妍さんは涙が溢れた。半年も帰省していない彼女は父の日を迎えるに伴い、父への思いが益々強くなった。 父の日を迎え、大學生たちは次々と父親の「新舊寫真」を公開している。
  • 日本の漫畫「はたらく細胞」が大人気 主役は體の中で年中無休で働く細胞
    また、日本の生物の授業でも使われているほか、醫學界の専門家の間でも好評を博している。ヒトの體內には37兆2千億個もの細胞が年中無休で働いており、體は細胞にとって工場のようなものだ。清水茜は、數が最も多い赤血球を赤い帽子をかぶった宅配便スタッフのようなキャラクターにしたてており、彼らは血管の中で、酸素や二酸化炭素をせっせと體中に運ぶ。
  • 北京大學の「ノラネコ図鑑」、人気のあまりサイトがダウン
    今月16日、あるネットユーザーが「北京大學のネコ図鑑」という名前のミニプログラムのスクリーンショットを投稿し、「ミニプログラムには、ネコ1匹ずつの寫真と名前がキャンパスネコ情報に登録されている」と綴った。
  • 【旅のパートナー】一人旅の割合が男性より高い中國人女性、トップ3は北京、上海、広州
    若い女性が一人旅をする割合が男性よりも高くなっているが、女性たちは道中の不測の事態にどのように対処すべきなのだろうか。 中國最大のオンライン旅行會社である攜程(Ctrip)は一人旅の女性を対象に、「世界旅行SOS」や現地ガイド、「旅のパートナー」、「誘拐保険」などのサービスを新しく打ち出した。
  • 【4月25日の世界の昔話】キツネと獲物
    むかしむかし、漁師りょうしが魚さかなをいっぱい大おおきなカゴに入いれて、凍こおった道みちを引ひっぱって歩あるいていました。
  • 中カツ!通信 第191號 本當に中國は悪い人が多いのか?
    「日本人って××だよね~」「中國人って××なんでしょ?」よく考えてみてください…前回、紹介した國勢調査中カツ!通信 第190號 10年ぶりの國勢調査から見えてくる中國の未來でも書いたように中國の人口は14.1億人です。當然、多種多様な人がいるわけで、それを「中國人は」という主語でまとめることが如何に大雑把すぎるかと。
  • 世界共通の「絵文字」に赤い雫の「生理マーク」が仲間入り
    これらの新たな絵文字は、早ければ今年春にネット上にリリースされる。今後、微信やQQなどのソフトウェアを利用してチャットをする際に、この絵文字を使うことで「生理」を意味することができる。女性問題専門家の多くは、「『生理』マークが絵文字に仲間入りすることで、『生理は恥ずかしいもの』という前時代的な認識から抜け出し、大きな一歩を踏み出すことができる。
  • 《ユリイカ》2019年6月號特集《「三國志」の世界》出刊
    「正史」とも異なる、発掘された「三國志」が日本に訪れる。大きなニュースとなった曹操の陵墓(曹操高墓)の発見(埋葬品も特別展「三國志」には展示される)は「三國志」を強く現実に引きつけた、歴史とフィクションの境界を問うこれまでの「正史」と『三國志演義』の対比から、史実との照応を超えて、いま新たに「三國志」を読みなおす。