「高校生こうこうせいのころ、通學つうがく電車でんしゃで毎日まいにちのように痴漢ちかんに遭あいました。恐おそろしかったし、悔くやしかった…」
「クローズアップ現代げんだい＋」のホームページに寄よせられた痴漢ちかんの被害ひがい者しゃからのメールです。メールを寄よせてくれた女性じょせいは、現在げんざい30代だいで３児じの母はは。心こころにふたをしていたつらい経験けいけんをつづってくれたのには理由りゆうがありました。
女性７割が被害を経験
クローズアップ現代げんだいには「みんなでプラス性せい暴力ぼうりょくを考かんがえる」というサイトがあり、連日れんじつのように被害ひがいを受うけた人ひとからの聲こえが寄よせられています。痴漢ちかんの被害ひがいも少すくなくありません。女性じょせいもこのサイトにみずからの経験けいけんを書かき込こんでくれました。
セクハラやパワハラなど、あらゆる暴力ぼうりょくを許ゆるさない社會しゃかいをつくるために行動こうどうするプラットフォーム「＃ＷｅＴｏｏ Ｊａｐａｎ」がことし１月いちがつに発表はっぴょうした、調査ちょうさの結果けっかがあります。
『電車でんしゃやバス、道路どうろなどで「自分じぶんの體からだを觸さわられる」「體からだを押おしつけられる」などの被害ひがいに遭あったことがある』という人ひとが女性じょせいの７割わり、男性だんせいの３割わりに上のぼったのです。
しかし2010年ねんの警察庁けいさつちょうの調査ちょうさでは被害ひがいに遭あった女性じょせいのうち、相談そうだん・通報つうほうできたという人ひとは１割わり弱じゃく。ほとんどが泣なき寢入ねいりです。
被害ひがいの経験けいけんをサイトに書かき込こんでくれたのは雪乃ゆきのさん（34歳さい・仮名かめい）。１歳さいから10歳さいまでの３人にんの子こどもの母親ははおやです。連絡れんらくをとると子育こそだてに奔走ほんそうする中なか、「人ひととして、女性じょせいとして、親おやとして、今いまの狀況じょうきょうを変かえたいと思おもっています」と言いって取材しゅざいに応おうじてくれました。
「聲をあげない」は肯定のサインではない
雪乃ゆきのさんが頻繁ひんぱんに痴漢ちかんの被害ひがいに遭あったのは、高校生こうこうせいの時とき。ひとりで電車でんしゃで通學つうがくしている時ときでした。
（雪乃ゆきのさん）「朝の満員まんいん電車でんしゃの中なかで、初はじめはお尻しりのあたりをフワフワッと觸ふれられる感覚かんかくでした」
「車內しゃないは混こんでいて身動みうごきが取とれないので、勘違かんちがいかもしれない…と思おもってそのままにしていると、手てつきが明あきらかにいやらしくなってなで回まわしてくるんです。ひどいときは、そのままスカートの中なか、さらにはショーツの中なかにまで手てを入いれられました」
雪乃ゆきのさんは突然とつぜんのことにショックで體からだがこわばり、聲こえをあげることさえできませんでした。
さらに、當時とうじ、痴漢ちかん被害ひがいを冗談じょうだんのように話はなす人ひとも周まわりにいたことから、「痴漢ちかんをされた」と口くちに出だすことが恥はずかしく、恐怖きょうふや不安ふあんを誰だれにも打うち明あけられませんでした。
相談そうだんできずにいる間あいだに、痴漢ちかん被害ひがいはどんどんエスカレートしていきます。雪乃ゆきのさんの顔かおをのぞきこみながら觸さわってくる男おとこ。電車でんしゃを乗のり換かえるまでつきまとい、「ねえ、このあと時間じかんある？」と聲こえをかけてきた男おとこもいたそうです。
頻繁ひんぱんに被害ひがいに遭あうようになってから１年ねんほどたったある日ひ。朝の通學つうがく時じだけでなく、帰かえりの電車でんしゃでも痴漢ちかんに遭あった雪乃ゆきのさんは、限界げんかいを感かんじついに聲こえをあげます。
「やめてください。觸さわりましたよね？私わたし、觸さわられるために電車でんしゃに乗のってるんじゃないんです！」
男は逃げた
それは、相手あいてに逆上ぎゃくじょうされ、暴力ぼうりょくをふるわれたらどうしようとおびえながらも、精せいいっぱい勇気ゆうきを振ふり絞しぼって出だしたことばでした。しかし、相手あいては「俺おれは觸さわってない」の一點張いってんばり。電車でんしゃが次つぎの駅えきに著つくやいなや、逃にげられてしまったそうです。
近ちかくで見みていた年齢ねんれいの近ちかい女おんなの子こたちが「あの子こ、カッコいいね」と話はなしている聲こえが聞きこえてきて、少すこしだけ勇気ゆうきづけられたという雪乃ゆきのさん。しかし、神経しんけいをすり減へらして聲こえをあげたものの、痴漢ちかんはすぐに逃にげ、悔くやしさだけが殘のこりました。
（雪乃ゆきのさん）「痴漢ちかんに遭あっていちばん嫌いやだったのは、自分じぶんが意思いしを持もたないモノのように扱あつかわれたことです。觸さわられ続つづけている間あいだ、自分じぶんは恐怖きょうふで硬直こうちょくしているのに、痴漢ちかんには、そんなこちらの心こころなんて全まったく関係かんけいない」
「「自分じぶんは痴漢ちかんにされるがままの存在そんざいなのか」とずっと情なさけなかった、怖こわかった、そしてつらかったんです」
最後に痴漢に遭った日
「最後さいごに痴漢ちかんに遭あった日ひ」のことを教おしえてくれました。その日ひ、雪乃ゆきのさんは痴漢ちかんをされて聲こえをあげました。すると近ちかくにいた男性だんせいが、逃にげ出だそうとする痴漢ちかんを捕つかまえて、その場ばで行為こういを認みとめさせました。
しかし、警察けいさつで雪乃ゆきのさんは「痴漢ちかんは立証りっしょうが難むずかしいし、裁判さいばんをしても簡単かんたんに勝かてないから諦あきらめたほうがいい」などと説得せっとくされたと言いいます。
（雪乃ゆきのさん）「第三者だいさんしゃが痴漢ちかんを捕つかまえてくれて、私わたしは半日はんにちがかりで事情じじょう聴取ちょうしゅを受うけて、痴漢ちかん本人ほんにんだって認みとめていたのに。それでも、社會しゃかいは痴漢ちかんに対たいして何なにも手てを打うってくれないのかと思おもうと悔くやしくて悔くやしくて…」
「泣なきながら家いえまで帰かえりました。でも不思議ふしぎなことに、その日ひからピタっと痴漢ちかんの被害ひがいに遭あうことがなくなったんです。因果いんが関係かんけいは分わかりません。でも、私わたしは痴漢ちかんたちに顔かおを覚おぼえられていたのかもしれません…」
「被害を語った理由は」
雪乃ゆきのさんに痴漢ちかんの被害ひがいを告白こくはくしたきっかけを尋たずねると、１つは、ある女性じょせいが作つくった「＃性せい被害ひがい者しゃのその後ご」のハッシュタグだったと言いいます。このハッシュタグでは、性せい被害ひがいに遭あった人ひとたちが、被害ひがい後ごのさまざまな苦くるしみや悩なやみを」なかったこと」にせずに語かたり合あっています。
（雪乃ゆきのさん）「ハッシュタグを知しるまでは、嫌いやだということを嫌いやだと言いえなかったんです。痴漢ちかん被害ひがいのことも心こころの中なかにしまって、ふたをしていました」
「でも、さまざまな被害ひがい経験けいけんを打うち明あけている人々ひとびとの聲こえに觸ふれて、「あのころ、私わたしが感かんじていたことは、間違まちがってなかった「と思おもえるようになり、救すくわれたんです」
雪乃ゆきのさんは、娘むすめと息子むすこを持もつ親おやになった今いま、「社會しゃかいの意識いしきを変かえなければ」という気持きもちも強つよく持もつようになったといいます。
（雪乃ゆきのさん）「女おんなの子こを産うんだときは自分じぶんのように被害ひがいに遭あったらどうしようと不安ふあんでした。次つぎに息子むすこたちが生うまれて、今度こんどは加害かがい者しゃにならないように育そだてるにはどうすればいいのか考かんがえるようになりました」
「また自分じぶんの経験けいけんから、痴漢ちかん行為こういがアダルトビデオなどで娯楽ごらくのように軽かるく扱あつかわれているのが私わたしは不安ふあんなんです。痴漢ちかんは、被害ひがい者しゃの心こころを長ながく傷きずつける卑劣ひれつな行為こういであることをしっかり認識にんしきしてほしい」
私は慣れてしまっていた
雪乃ゆきのさんのメールを読よむまで、私わたし自身じしん、痴漢ちかん被害ひがいを記憶きおくの奧おくにしまったままでした。今回こんかいの取材しゅざいを通つうじて、「痴漢ちかんが存在そんざいする社會しゃかい」に慣なれてしまい、自分じぶんの感覚かんかくがまひしていたことに気付きづかされました。
「よくあること」は、「取とるに足たらない小ちいさなこと」ではありませんでした。見知みしらぬ人ひとから、望のぞんでもいない行為こういをされることがどんなにつらいことか、それが知しられていないのならもっともっと伝つたえ続つづけていかなければいけない。
ただ體からだをさわっているのではなく、目めの前まえの人ひとの心こころを時間じかんがたっても癒いえないほど傷きずつけていることを伝つたえ続つづけていかなければいけない、そう思おもっています。
痴漢ちかんに関かんする取材しゅざいを続つづけています。被害ひがいの経験けいけんを教おしえてください。また、被害ひがいの現場げんば・実態じったいを捉とらえた映像えいぞうなどの証拠しょうこをお持もちの方ほうがいましたら情報じょうほうをお寄よせください。いただいた情報じょうほうを承諾しょうだくなく公開こうかいすることはありません。