「斷捨離」と呼ばれているライフスタイルが世に流行っているようである。
やましたひでこ女史が提唱したこの生活への新しい態度は世間の共感を呼び、その著書は三百萬部も売れたという。2010年の日本の流行語にも選ばれ、一世風靡し、今もなおその影響力を発しつつあるようである。
「斷捨離」とは、入ってくるいらない物を斷つ。また、家にあるいらない物を捨てる。しまいに、物への執著から離れていくとのことである。ゆき過ぎた「もったいない」精神の呪縛から背き離れようとするこの考え方は、最初、単なる家の片づけ術として紹介されていたが、やがて、その奧に潛んでいる哲學的な思想が徐々に受け入れられ、人間のあらゆる執著心から解き離されようとするものまでに発展した。
やましたひでこ女史が提唱した生活術は新しい発案というより、伝統的な禪的精神をかたどったものといえよう。たとえば禪宗の言葉にある「知足(ちそく)」や「放下著(ほうげじゃく)」と同じように、あるいは「ゴミの重さは心の重さ」などの格言に內包されている精神の奧深さを実生活に反映させれば、「斷捨離」が唱えている趣旨と非常に近いものになる。
一方、この間終了したばかりの「11.11」、中國の「ネットショッピング·カーニバル」に目を転じてみよう。毎年のごとく、この日に限った半錯亂的な購買ぶりをみて思わず息をのんだ人も多いのではないかと思う。2016年の最新データによると、なんと零時をまわってわずか52秒で中國ネットショッピング最大手企業の消費額は10億元に達し、またまた記録更新となった(2015年は72秒で10億元)。その日丸一日の消費額は1207億元で、中國のみならず世界235の國と地域が地球規模のこのショッピング·カーニバルに加わったという。
このネットショッピング·カーニバルは2009年からはじまり、毎年の11月11日に行われている。四つの「1」が並んでいるため、揶揄を込めて「獨り者の日」と若者が勝手につくったものだが、いつの間にか「買い物の日」になってしまった。日本飴菓子工業協同組合が1980年から毎年3月14日を「ホワイトデー」として指定したのと同じように、消費者は常に「商法」に翻弄され、「商戦」の罠に陥れられてしまうのである。
真冬の気溫はどんどん下がっていっても、懐はますます暖かくなり、まことに結構な話である。経済の原動力である消費行為は人海戦術がくわわると、たちまち世界を驚かせてしまうほど不敵なものになる。エコノミストではなくても小生は「內需の拡大」や、「経済の活性化」など耳にタコができるぐらい聞かされたうたい文句の意味をちゃんと理解して、だんだん老化していくおつむに叩き込んでいるつもりである。しかしながら、夜通しでパソコンにへばり付き、クリックの速さを競い合い、目玉商品を奪い合うような亂痴気騒ぎぶり、あるいは、地球を丸ごと買ってしまいそうなこの勢いに対して、果たして私たちは心から喜ぶべきだろうか。
さて、紙幅の関係で今回語りきれなかった「斷捨離」の奧義については、次回、もう少し語っていきたい。