彼女は白けた顔でみかんをむさぼった。彼女に僕の価値観を理解してもらおうとは思わなかった。彼女は僕とは反対の人間なのだから。
她掃興地剝著蜜柑皮。我沒想過要她了解我的價值觀,因為她跟我完全相反。
彼女は人と関わることで生きてきた人間だ。表情や人間性が、それを物語っている。反して僕はというと、家族以外全ての人間関係を頭の中での想像で完結させてきた。
她的成長過程中,一直都跟各種各樣的人往來,從她的表情和個性就看得出來。相反地,我除了家人以外,跟其他人的關係都在腦袋中想像就完結了。
好かれるのも嫌われるのも僕の想像で、自分に危害が及ばなければ好き嫌いすらどちらでもいいと思って生きてきた。人との関わりを最初から諦めて生きてきた。彼女とは、正反対の、周りから必要とされない人間。
被喜歡或是被討厭都是我的想像,只要不危害到自己,喜歡或討厭都無所謂,我就是這樣長大的,從一開始就放棄了跟別人往來。我是跟她完全相反,不被周圍需要的人。
それでいいのかと訊かれたら、困るけれど。
但如果問我這樣好不好,我會很為難就是了。
みかんを食べ終わった彼女は、丁寧にむいた皮を折り畳んでゴミ箱に投げた。皮ボールは見事にゴミ箱に入り、それしきのことで彼女は嬉しそうに拳を握る。
她吃完蜜柑,仔細把皮疊起來,扔進垃圾桶。蜜柑皮球精彩地正中目標,這種事就能讓她高興到握起拳頭。
「ちなみに、私は君のことをどう思ってると思う?」
「對了,那你覺得我是怎麼想你的?」
「さあ、『仲良し』とかじゃないの?」
「誰曉得,不是『交情好』嗎?」
僕の妥當な答えに、彼女は唇を尖らせた。
我隨便回了一句,她嘟起嘴來。
「ぶー、はーずれ。前はそうだと思ってたけどね」
「叭——,錯——了。雖然之前我是這麼覺得的啦。」
獨特な彼女の言い回しに僕は首を傾げる。そうだと思っていた、というのはつまり、他の考えに変わったのではなく、自分の考えが違う種類のものだと気がついたということだろうか。少しだけ、興味があった。
她獨特的表達方式讓我側耳傾聽。我想也是如此。也就是說,不是她的想法改變了,而是她發現自己的想法是不一樣的類型吧。我稍微有了一點興趣。
「じゃあ、どう思ってるの?」
「那你是怎麼想的?」
「教えたら人間関係、面白くないでしょ。人間は相手が自分にとって何者か分からないから、友情も戀愛も面白いんだよ」
「人家告訴你就沒有意思啦。就是因為不知道別人對自己的看法,所以友情跟愛情才有趣。」
「やっぱり君はその考え方なんだね」
「果然你的想法是這樣的。」
「あれ? 前にもしたっけこの話」
「咦,我們之前也講過嗎?l
本気で忘れているのか、彼女は不思議そうに眉をひそめた。その様子がおかしく、僕は笑ってしまった。
她懷疑地皺著眉頭,好像真的忘記了。她滑稽的樣子讓我笑出來。
第三者的な僕が、人に対して素直に笑う自分を見ていた。いつの間にそんな人間になれたのだろうかと、訝《いぶか》しがり、反面、感心していた。
另外一個置身事外的我,望著自己直率地對別人笑著,一面訝異自己什麼時候變成這樣的人了,一面覺得佩服。
僕をそうしたのは、間違いなく目の前の彼女だった。いいことなのか悪いことなのかは誰にも分からないだろうけれど。とにかく隨分と、僕は変わってしまった。
毫無疑問地,是眼前的她改變了我。雖然這是好是壞,沒人知道,總之,我變了不少。