「境界」を探る―
中國古典文學に描かれる厠や井戸、それにまつわる道具や、井戸の周囲などを「めぐる」という行為には、どのような観念が存在していたのか。
「異空間」のひとつとしても位置づけられている厠、そして厠神の存在。文言小説で描かれる「境界としての井戸」の発想を用いて作られた元稹の「夢井」。白居易「長恨歌」におけるかんざし描寫の獨自性…古代中國の人々がそれらの場所・道具・行為をどのように認識し、如何にその象徴性を詩歌に反映させたかを綿密な資料調査と分析から考察する。
従來、等閑視されてきた民俗學的視點から、詩歌研究の新たな可能性を探る快著。
目次
緒 言
第一章 正と負の厠神―中國における厠観―
一 はじめに
二 日本、中國における厠関連研究の整理
三 建築物としての厠
四 害悪をもたらす負の厠神―附・厠での禁忌―
五 正の厠神
六 正と負の厠観の共存―結びにかえて―
第二章 元稹「夢井」考―中國における井戸観―
一 はじめに
二 清らかさ―民を養う井戸―
三 閉塞感―澱んだ井戸―
四 異界への通り道―文言小説における井戸を中心に―
五 故郷の景象と井桐―時の経過と憂愁―
六 元稹「夢井」の位置
七 おわりに
第三章 元稹「夢井」における「遶井」の意味―死者を悼む旋迴儀禮―
一 はじめに
二 問題提起
三 「めぐる」行為に関する先行研究の整理
四 「夢井」における「めぐる」行為(一)―「徘徊遶井顧」―
五 「夢井」における「めぐる」行為(二)―「還來遶井哭」―
六 おわりに
第四章 李白「長幹行二首 其一」における「遶床」―婚姻に関する旋迴儀禮―
一 はじめに
二 「長幹行二首 其一」原文および問題提起
三 「青梅」について―梅と愛、婚姻―
四 めぐる行為と婚姻儀禮―「帳」「廬」と「遶床」―
五 「長幹行」の「床」―唐代の詩文における井床と『伊勢物語』―
六 おわりに
第五章 李賀「後園鑿井」考―釣瓶と轆轤に託されたもの―
一 はじめに
二 李賀「後園鑿井」原文と注釈整理
三 李賀「後園鑿井」解釈―第一句から第二句「井上轆轤 床上転」―
四 李賀「後園鑿井」解釈―釣瓶と轆轤に託されたもの―
五 李賀「後園鑿井」解釈―第七句から第十句・時間と太陽―
六 おわりに
第六章 白居易「長恨歌」の試み―かんざしの喪失と破鏡重円故事―
一 はじめに
二 中國におけるかんざしの名稱
三 隋代までのかんざし詩
四 唐代におけるかんざし詩
五 おわりに
附 流れる汗・にじむ汗―白居易における舞妓の汗描寫を中心に―
一 はじめに
二 隋までの作品―流れる汗からにじむ汗へ―
三 唐代における汗描寫
四 西方音楽の流行―白居易の楽舞詩と汗描寫―
五 おわりに
補論一 京都大學人文科學研究所所蔵『天地瑞祥志』第十六翻刻・校注―「醴泉」「井」―
補論二 日本の古典文學における井戸描寫概説
結 語
あとがき
主要參考文獻一覧
英文摘要・中文摘要
著者
山崎 藍(やまざき・あい)
1977年東京都生まれ。東京女子大學現代文化學部卒業。東京大學大學院人文社會系研究科アジア文化研究専攻修士課程修了、同博士課程単位取得退學。博士(文學)。
明星大學人文學部準教授などを経て、現在青山學院大學文學部準教授。
主な共著書に『穆天子伝・漢武故事・神異経・山海経他』(竹田晃・梶村永・高芝麻子と共著、中國古典小説選1、明治書院、2007年)、主な論文に「元稹悼亡詩《夢井》新釈―以中國古代井観為視點」(『國際漢學研究通訊』第11期、2016年)、「かんざしの喪失と破壊―先秦から唐代に至るかんざし詩の変遷と「長恨歌」の試み」(『日本中國學會報』第70集、2018年)、「流れる汗・にじむ汗―白居易における舞妓の汗描寫を中心に―」(『白居易研究年報』第20號(最終號)、勉誠出版、2020年)などがある。
內容取自:
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&cPath=1&products_id=101174