「デジタル時代の映像文學」と稱される、その美しい映像と敘情的なストーリーが世界を魅了
100%の力を発揮したと思っていても、終わってみれば80%の出來でしかなかったということがよくあります。それはきっと、細かいディーテールにまで気を使う餘裕がなかったから、完璧には至らなかったと理解できるのではないでしょうか。
「神は細部に宿る」とは、バウハウスの思想をインターナショナルなスタイルに昇華させた建築家、ミース・ファン・デル・ローエの言葉。この格言の意味するところは、120%の力を発揮してはじめて、100%の成果を得られるということだと思います。
なかなか凡人には難しいと思われるかもしれませんが、日本人は得てして職人気質を持ち合わせており、意外と完璧主義だったりするものです。それでも、120%の力はなかなか出せるものではないし、ましてや出し続けるには命を削ることになるかもしれません。
ところが、それを自分の芸術のスタイルにしてしまっている映像作家が、新海誠監督だと思うのです。「二次元アニメの限界とも言える圧倒的な映像美」と稱されるのはその作品スタイル故であり、監督の描くリリシズムは日本人としての広い意味での愛郷心あるいは郷土愛がこころに深く根付いているからだと見て取れます。
今月24日から始まる伊勢丹での新海誠展は、こんなことにも注意を払いながら観覧してみてはいかがでしょうか。きっと、さらに新海作品に興趣を添えられるのではないかと思います。
ー 作品紹介 ー
『雲のむこう、約束の場所』
日本が南北に分斷された、もう一つの戦後の世界。米軍統治下の青森の少年・藤沢ヒロキと白川タクヤは、同級生の沢渡サユリに憧れていた。彼らの瞳が見つめる先は彼女と、そしてもうひとつ。津軽海峽を走る國境線の向こう側、ユニオン佔領下の北海道に建設された、謎の巨大な「塔」。いつか自分たちの力であの「塔」まで飛ぼうと、小型飛行機を組み立てる二人。
だが中學三年の夏、サユリは突然、東京に転校してしまう…。言いようのない虛脫感の中で、うやむやのうちに飛行機作りも投げ出され、ヒロキは東京の高校へ、タクヤは青森の高校へとそれぞれ別の道を歩き始める。
三年後、ヒロキは偶然、サユリがあの夏からずっと原因不明の病により、眠り続けたままなのだということを知る。サユリを永遠の眠りから救おうと決意し、タクヤに協力を求めるヒロキ。そして眠り姫の目を覚まそうとする二人の騎士は、思いもかけず「塔」とこの世界の秘密に近づいていくことに。
「サユリを救うのか、それとも世界を救うのか」
はたして彼らは、いつかの放課後に交わした約束の場所に立つことができるのか…
『秒速5センチメートル』
第一話『桜花抄』
小學校の卒業と同時に離ればなれになった遠野貴樹と篠原明裡。二人だけの間に存在していた特別な想いをよそに、時だけが過ぎていった。中學生になった夏、栃木にいる明裡から手紙が屆く。それをきっかけに二人は文通を重ねるようになるが、今度は貴樹が鹿児島へ転校することに。そんなある日、大雪の降るなか、ついに貴樹は明裡に會いに行く……。
第二話『コスモナウト』
種子島に暮らす高校三年生の澄田花苗は、中學の二年の春に東京から転校してきた遠野貴樹に想いを寄せていた。しかし、卒業を控え様々な問題に悩み始める。ずっと続けてきたサーフィンのスランプ、進路のこと、そして貴樹への想い。サーフィンで再び波の上に立てたとき、自分の胸のうちを貴樹に伝えようと決心するが……。
第三話『秒速5センチメートル』
大人になった遠野貴樹は、高みを目指しもがいていたが、それが何の衝動に駆られてなのかは分からなかった。ひたすら仕事に追われる日々にいつしか心疲れ、會社を辭め、三年間付き合った彼女とも別れてしまう。そして春、桜が舞う中、彼は思い出の踏切である女性とすれ違う……。彼らの魂の彷徨を切り取った表題作。
『星を追う子ども』
ある日、父の形見の鉱石ラジオから聴こえてきた不思議な唄。誰かの心がそのまま音になったような唄を、忘れられずにいた少女アスナに訪れたひとつの出會い。
お気に入りの高臺に向かう途中、異様なケモノに襲われたアスナはシュンという少年に助けられる。アガルタという遠い場所から、どうしても會いたい人と見たいものがあってやって來たと語るシュン。2 人は心を通わせていくものの、突然シュンはアスナの前から姿を消してしまう。
そして聞かされる哀しい知らせ。それを信じられずにいたアスナは、學校の新任教師モリサキから地下世界の神話を教えられる。そこはこの世の秘密が隠されたあらゆる願いが葉う場所で、アガルタとも呼ばれているという。
そんな中、アスナの前にシュンに瓜ふたつの少年と彼を追う謎の男たちが現れる。男たちの狙いは、アガルタへの鍵であるクラヴィス。追い詰められた少年とアスナの前で、ついにアガルタへの扉が開かれる。そこでアスナは、男たちのリーダーが亡き妻との再會を切望しアガルタを探し続けていたモリサキだったということ、少年がシュンの弟シンだということを知る。
アガルタへの入口を目前にして、アスナはある決意をする。「もう一度、あの人に會いたい」。アスナ、モリサキ、シンの3 人はそれぞれの想いを胸に、伝説の地へ旅に出るー。
『言の葉の庭』
靴職人を目指す高校生・タカオは、雨の朝は決まって學校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。ある日、タカオは、ひとり缶ビールを飲む謎めいた年上の女性・ユキノと出會う。ふたりは約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるようになり、次第に心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノに、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作りたいと願うタカオ。六月の空のように物憂げに揺れ動く、互いの思いをよそに梅雨は明けようとしていた。
-劇場映畫にみる新海誠の世界-
新海監督の劇場映畫『雲のむこう、約束の場所』『秒速5センチメートル』『星を追う子ども』『言の葉の庭』の4作品を取り上げ、各作品の紹介をはじめ、公開當時のポスター、絵コンテ、キャラクター設定、作畫(レイアウトや原畫の複製)など、作品の製作過程を網羅した展示を行います。
さらに、作品に登場する背景美術と記念撮影ができるなど観客體験型コーナーの設置や、本編映像や作品のメイキング映像、監督やキャストインタビューの上映を行います。
會期: 2017年8月24日~9月6日
8/24-8/31 11:00-22:00
9/1 – 9/5 10:00-21:00
9/6 10:00-18:00
※入場は終了30分前まで
會場: 天津伊勢丹(南京路店)6F・7F展示場
住所: 天津市和平區南京路108號
主催: 北京日本文化センター(國際交流基金)、天津伊勢丹
協力: 株式會社コミックス・ウェーブ・フィルム
※入場には伊勢丹の會員登録が必要です。以下のQRコードよりご登録ください。