2021年は「創業50周年」の企業が2萬8160社あるそうだ(東京商工リサーチ調べ)。日本マクドナルドもその1つ。1971年7月20日にマクドナルド1號店が銀座にオープンし、ハンバーガーという食べ物、ファストフードという食スタイルを普及させていくこととなる。
しかし実はその1年前に誕生し、かつて國內に約400店舗を展開したハンバーガーチェーンがある。ドムドムハンバーガーだ。
もとはダイエーのグループ會社オレンジフードコートの運営で、フードコートや駅ビルでの展開が中心。今で言う昭和レトロな雰囲気の看板や、ぞうのかわいらしいキャラクターを、郷愁とともに思い起こす人も多いのではないだろうか。
しかし現在は全國27店舗まで縮小しており、都內の展開も淺草花やしき店、小平店、マルエツ大泉學園店と3店舗のみである。印象は強く刻み込まれているのだが、その実體をなかなか見ることができない、まるでレアキャラクターのような老舗ブランドなのだ。 しかしこのところ、そのドムドムハンバーガーががぜん、息を吹き返す動きを見せている。 最たるものが、新業態TREE&TREE’s (ツリーアンドツリーズ)の展開だ。8月2日、新橋にて開業した同ブランドは、店內で手切りをしたパティを米粉のバンズでサンドしたバーガーをメイン商品に「日本で食べられる最高のハンバーガー」を目指すショップだという。 新ブランド立ち上げの立役者、ドムドムフードサービス代表取締役社長の藤﨑忍氏は新業態への思いを次のように語る。 「新店舗の名稱はレンブラントの『3本の木』という作品をイメージしたもの。モノトーンの田園風景に揺るぎなく立つ3本の木……新橋の復興と重なる版畫だと感じました。ツリツリ(ツリーアンドツリーズ)として新しい一歩を始める新橋はかつて闇市で活気に満ち、ここから戦後の復興が起こりました。ツリツリでは、ドムドムでできないことに挑戦し、最高においしいハンバーガーを提供していきたいと考えています」「ドムドムではできなかったこと」とは、具體的には和牛の使用、キャッシュレス化やセルフレジの導入、マイカップや袋の有料化といったSDGs施策などだという。 新業態では店名にちなみ、3Thingsと3Timesをコンセプトとする。すなわち、「おいしいフード」「楽しいメニュー」「優しいおもてなし」の3つのことがらを、「朝」「晝」「夜」の3つの時間帯で提供していくという內容だ。 メイン商品は和牛バーガー。2019年9月、六本木で開催したイベントで提供して好評を博した商品だ。店內で手切りしたパティと米粉のバンズだけでも特徴的だが、さらに、和牛の味を引き立てるあっさりした味つけに仕上げているのも同ブランドならでは。塩のほか醤油、山葵、紫蘇、アボカド、チーズなど7種類がある。 また最近ではどのハンバーガーチェーンも代替肉(大豆ミート)バーガーをラインナップしているが、歐米ほど肉食量が多くないわが國では今ひとつ、アイデンティティを確保できないでいるという印象だ。 ツリツリでは同じ轍を踏まなかった。代替肉のパティを模索する中で「日本には豆腐がある!」という藤﨑氏の発案により、厚揚げをそのままバンズで挾んだものを考案。ドムドムでも商品化を検討していたが、品質管理と流通の難しさから斷念していたという。そのメニューをツリツリで実現した。
■モーニングの目玉はスパイスの効いたチキンカレー
3Timesと稱する通り、モーニング、ランチ、レギュラーと時間帯により提供メニューが異なる。モーニング(~10時半)の目玉はアサダケカレー(390円~)だ。油脂類や小麥粉不使用、ライスも麥ご飯という、あっさりカレー。14時以降はアルコールに合うおつまみを提供する。パティの端材を煮込んだ「牛筋デミグラス煮込み」(690円)や、えびのすり身とパンを揚げた「ハトシ」(590円)など、和洋をうまく混合したバルメニューがそろう。
これらのツリツリの特徴、以前のドムドムハンバーガーにない新しい試み。新社長である藤﨑氏の個性が全面に表れていると言えるだろう。
同氏は2017年11月、平社員として入社。同社の経営権がそれまでのオレンジフードコートよりレンブラントホールディングスに委譲された4カ月後だ。そしてわずか9カ月後に代表取締役として大抜擢された。
まったくの専業主婦から39歳でSHIBUYA109內のアパレルショップ勤めに転身、次は新橋で居酒屋を開業したという、驚くような経歴の持ち主。しかしこれらの経歴があるからこそ、今回のドムドムブランドの復活施策が成功してきたと言える。
活躍を語るうえでもっともわかりやすいのが、「丸ごと!! カニバーガー」だろう。 2019年9月に六本木で開催されたイベントで先行発売され、10月より全國で期間限定発売。SNSの話題をさらった、伝説的なメニューである。 バンズからカニがはみ出ているそのビジュアルは、「きれい」や「おいしそう」といった形容で収まらず、ある意味ガウディの作品のような 「ものすごさ」を感じさせる。またこのバーガーに用いられているソフトシェルクラブ(脫皮したばかりのカニ)は希少な高級食材であり、コストバランスや仕入れ面から考えても、ファストフードチェーンで扱う食材ではない。丸ごとのカニを揚げるという調理手順も、オペレーション面で難関となりそうだ。それにもかかわらず商品開発チームからそのような商品企畫が発案され、また商品化を即決、さらには成功させたところに同氏の手腕が表れていると言える。
■素材を生かした優しい味つけ なお、「丸ごと!! カニバーガー」はドムドムハンバーガー淺草花やしき店や7月2日に宮城県にオープンしたイオンモール新利府北館店で食べられるほか、ツリツリでもレギュラーメニューとして扱われている。 ここで、ツリツリメニューの試食體験についても少し觸れておこう。
まず「アサダケカレー」は、スパイシーで適度に濃厚さがあり、お肉もゴロゴロと入っていて、カレーとして十分に満足できる味。にもかかわらず、さっぱりしていて食べた後に苦しくならない。もっと言えば、お腹がいっぱいのときでも平らげられてしまうぐらい、軽いカレーだ。
「和牛バーガー 塩」(プライドポテト付き1350円)は、味つけが塩と胡椒のみだが十分にうまみが感じられる。挽き肉というよりカットした肉をまとめたパティなので、噛み応えがあるのが大きな特徴。さらに、こちらも食べた後胃にもたれないのは米粉のバンズと、脂身が少ない肉質からだろうか。
「厚揚げバーガー」(990円)は、本當にそのままの厚揚げを挾んだもの。生薑醤油で食べる家庭のおつまみを彷彿とさせるが、米粉のバンズで、なおかつマヨネーズが挾んであるため、バーガーとして味がまとまっている印象だ。 チェーンのレストランなどでは少し濃いめの味つけに設定してあることが多いが、ツリツリのメニューは素材を生かした優しい味つけで、家庭や個人店の味を思わせる。 これは一つには、ドムドムハンバーガーが日本発のバーガーチェーンであり、これまでも獨自のバーガーを得意としてきたことが関係しているようだ。また、自ら居酒屋の女將として腕をふるった経験がある藤﨑氏も、「アジフライバーガー」や「手作り厚焼きたまごバーガー」といった和のメニューを開発してきた。 日本マクドナルドを始めとして、日本にハンバーガーチェーンはいくつもあるが、ブランドならではの獨自性あるメニューをヒットさせるのはなかなか難しい。結果として、どこでも同じようなバーガーが並んでしまうということになる。しかしその中にあってドムドムは別の次元で獨自の路線を行っている印象を受ける。 しかしドムドムハンバーガーを飲食チェーンとして客観視すると、全國で27店舗という規模では、とくに食材の仕入れや配送といったコスト面で、チェーンとしての力を発揮することは難しいと感じられる。アクセス面でも不利で、「そこにたまたまあったから」店に入る、機會來店の客はまず望めない。しかしそこでドムドムの強みとなっているのが、ブランドの力である。今は実店舗を見かけることがなくなっていても、「ドムドム」と聞いて「懐かしい」「聞いたことがある」と思う人が少なからず存在する。 そのブランドの力を活用し、成長させていこうというのが藤﨑氏の戦略のようだ。 例えば就任後すぐにイベントへの出店を活発化したのもその一つ。イベントへの積極的な出店は多くの人の脳裡でドムドムという存在を復活させたほか、伝説メニュー「まるごと!! カニバーガー」開発や、新業態オープンにもつながった。またアパレルメーカーとのコラボやECサイトでのグッズ販売も新しい試みだ。 ただ、ECサイトはブランド戦略というよりはコロナ対策からの発想だったという。 「2020年の5月、マスクが売場になくなっていた時期に従業員のためにオリジナルのマスクを作りました。深刻なマスク不足だったためお客様にお分けしようと、レジ橫で350円で販売したところ、行列ができる事態に。密を作ってしまっては本末転倒なので、すぐに店頭販売を中止し、ECへと切り換えました。素材もよくて使い心地がよいということで、16萬枚を販売させていただきました」(藤﨑氏) ECサイトではその他、Tシャツやぞうのキャラクター「どむぞうくん」のぬいぐるみなどがラインナップされており、リピート率48%の人気サイトになっているそうだ。 このECサイトはコロナ禍での売り上げに貢獻。コロナの影響で2カ月の間2店舗が休業したこともあり、2021年3月期の店舗売り上げは前年比98%だったが、全體では109%と前年比アップを遂げることができた。 「ドムドムやツリツリのサービスには私の個性が表れているということではないんですよ。小さい會社なので、社員みんなの思いが詰まっています。またこれまでブランドを思ってきてくださったお客様やスタッフといっしょに、さらに50年後まで続くブランドを育てていきたいと考えています」 新業態ツリツリはドムドムのブランド力を直接客に伝える発信拠點であり、同社にとって大きな一歩となる。ドムドム再生なるか、行く末を見守りたい。
圓岡 志麻 :フリーライター
來源:東洋經済
8月18日 日元匯率