新型コロナウイルスの感染拡大。「新しい生活様式」が提唱されるなど、影響の長期化も懸念されています。そうした中でいま注目されている考え方が、「withコロナ」の社會。新型コロナウイルスと「共に生きる」ことを前提に、私たちの暮らしのかたちそのものを、変えていこうというのです。「withコロナ」の新しい社會へ、どう変わり、どう生き殘っていくのか。模索を始めた3つのケースを紹介します。
「できないことは できないという」ある事務所の挑戦
新型コロナウイルスの影響が長期に及ぶことを見據えて、3密になりがちなオフィスワークでの感染防止対策と業務の両立を模索し始めた企業もあります。
東京 新宿區の社會保険労務士の事務所では、政府が緊急事態宣言を出した先月7日から20人の従業員の仕事場を分散させました。
まず、栃木県のサテライトオフィスに出勤している7人と新宿の本社オフィスの13人の行き來を禁止。さらに本社オフィスは會議室も従業員の作業スペースにして、これまで1部屋に10人以上が集まっていた狀態から、2、3人で作業する環境に変えたということです。
職場環境を大きく変えたのに合わせてこの事務所が力を入れたのが、従業員一人一人に不安や困ったことがないか丁寧に聞き取りを行うことでした。
すると従業員から、コミュニケーションが取りにくく1人だけで仕事をしていると不安になるという聲があったことから、それぞれの部屋にモニターとマイクを設置し、オンラインで常時つなぐことにしました。離れていても互いの様子がわかり気軽に聲がかけられるようになったことで、従業員の戸惑いは徐々に解消されたということです。
顧客に対するサービスも大きく変えました。
先月8日付けで顧客に出した文書には、當面の措置として、來客や訪問はいっさい中止して対応を電話やインターネット上のみに制限することや、給與計算や僱用保険、助成金申請など、緊急性の高い業務を優先して、通常行っている細かな事務手続きなどのサービスは遅れることを伝えています。
事務所代表で社會保険労務士の出口裕美さんは「サービスの縮小を顧客に伝える際はクレームが來るのではと怖かったですが、実際には1件もなく、逆に『大変ですね』と勵ましをもらい、ありがたく思いました」と話していました。
最近では僱用を維持するための助成金申請手続きなどで、業務はかなり増えているということで、出口さんは「感染は怖いですが、やらなければならないという使命感もあります。感染して仕事ができない環境になると客先にさらに迷惑をかけてしまうので、できないことは『できない』と言える勇気が必要なんじゃないかと思います。ちゃんと伝えていくことで、職員たちの安心も守ることができます」と話していました。
「ライブ再開 その日まで」 業態変更で生き殘れ
休業要請の対象になっている東京のライブハウスでは、一時的に業態を変更し生き殘りを図ろうとしています。
東京 目黒區にあるライブハウスは、食事をしながらジャズやフラメンコなどの生演奏が楽しめるライブレストランとして人気を集めていましたが、休業要請を受けて3月下旬から営業を取りやめました。
國の持続化給付金を受け取り、東京都の感染拡大防止協力金の申請も済ませましたが、従業員の人件費や店の賃料には足りないため、さらに現金収入を得ようと、今月7日から晝の時間帯にレストランとしての営業と弁當の販売を始めました。
今後ライブハウスとしての営業を再開できても客足がどの程度戻るか見通しが立たないとして、今月12日からはレストランの営業時間を午後8時まで延長し、一時的な業態変更で生き殘りを図ろうとしています。
店のオーナーによりますと、今月15日には店內で食事をする人が10人ほどいたほか、およそ20食の弁當が売れたということです。
インターネット上で資金を募るクラウドファンディングも始めていて、18日までに300萬円餘りが集まりました。
ライブレストラン「中目黒楽屋」の増茂光夫オーナーは「ライブハウスが生き殘らないと、一瞬一瞬を共有するという音楽のいちばんいい部分を伝える場所がなくなってしまう。1日にせめて1萬円でも2萬円でも稼いで、ライブを再開できる日まで頑張っていきたい」と話しています。
「店に來なくても」 ネットでやり取りして買い物を
感染リスクを減らしながら買い物を楽しんでもらおうと、東京 吉祥寺の雑貨店では客が店に來なくても店員とオンラインでやり取りしながら商品を選べるサービスを始めました。
雑貨店「マジェルカ」は緊急事態宣言が出された先月から通信販売だけで営業していましたが、先月末からオンライン會議ツール「Zoom」を使って買い物ができるサービスを始めました。
客が店のホームページを通じて利用したい日時を予約すると、その時間、店內にいるタブレット端末を持った店員と會話ができます。そして、求めている商品の種類やイメージを伝えると、店員がさまざまな商品の映像を映しながら、特徴や値段などを説明します。
花瓶などを買おうとサービスを利用した京都市の30代女性は、店員に花瓶の色合いを尋ねたり実際に造花を差してもらったりして商品を選び、ほかにも敷物や裝飾品など合わせて5品を購入しました。
女性は「東京の店にはなかなか行けませんが、商品の見たいところを見ることができ分かりやすかったです」と満足した様子でした。
店を経営する藤本光浩さんは「新型コロナウイルスの影響で外出できない人たちに買い物を楽しむ機會を提供したい。店としても家賃を払い続けなければならないので、少しでも売り上げにつながってくれればいい」と話していました。
専門家「今までの枠組み もはや成立しない」
経営學に詳しい京都大學経営管理大學院の山內裕準教授に聞きました。
「厳しいのは、店にやって來た客にサービスや商品を提供し価値を産むという、今までの枠組みがもはや成立しなくなっていること。そうした中でオンラインでの仕事や在宅勤務などいろんな不便もあるが、それぞれのお店や企業が自分たちの価値を見つめ直し、新しい活動を始めている。試行錯誤を通じて、一時しのぎで終わる取り組みもあれば、今後さらに発展してイノベーションにつながる取り組みも出てくるだろう」
「今後は客とのコミュニケーションが大事になる。サービスは1つの文化なので、単に手を洗ってくださいとことばで表現するだけではなく、徹底して安全管理をし、客が『すごいな』と思って安心感につながるような全體の文化を作っていくことが重要だ」
そして、客の側も意識を変える必要があると指摘します。
「サービスは店が一方的に提供するものではなくて、客も一緒に作るもの。細かいところまで徹底して対策している店を見抜いてあげて、評価する。ただ単に安全でおいしいものを出せというだけではない。今後そうした対応が、客の側の責任として降りかかってくるだろう」
新型コロナウイルスの患者を受け入れている病院の利益率が4月、平均で10%を超える赤字に転落したことが18日、病院団體の調査で分かった。コロナ以外の患者が大きく減る事態が続けば、病院の経営危機につながる懸念がある。
日本病院會、全日本病院協會、日本醫療法人協會が7~15日に加盟する全國の4332病院を対象に調べた。
有効回答があった1049病院の4月の利益率はマイナス9・0%。前年同月のプラス1%から10ポイントの悪化だった。このうち新型コロナの患者を受け入れた269の病院は、利益率がマイナス11・8%で、悪化幅もさらに大きかった。
苦境の要因は、患者數の減少だ。4月の外來の初診患者數は1年前と比べて4割減。コロナ患者を受け入れた病院では4月の病床利用率が67・1%と1年前より10ポイント以上落ち込んだ。
コロナ患者を受け入れていない病院も含め、患者側が感染を避けるために通院を控えたことや、病院側がコロナの感染患者を個室に入院させ、使えるベッドの數が減ったなどの事情があるとみられる。厚生労働省は4月からコロナに対応した診療報酬を増やしたが、損失を埋め切れていない。
會見した全日本病院協會の豬口雄二會長は「これから第2波、第3波がくるというなかで対応ができなくなるのではないか」と話した。各病院は手元資金が豊富とは言えず、6月にも経営危機が表面化する可能性があるという。
一方、大學病院関係者らもこの日會見し、全國80の大學病院で今年4月の狀況を元に試算すると通年では5千億円の減収になるとの推計を発表した。日本醫師會の橫倉義武會長らはこの日、安倍晉三首相と面會してこの推計を伝えた。首相は「大學病院をつぶすことはしない」と述べ、何らかの対応を取る考えを示唆したという。(久永隆一)
新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が広がる中、インターネット通販などの荷物を運ぶ配達業者が多忙を極めている。既に1年で最も忙しい12月を上回る仕事が入り、休み返上で働く従業員も多い。新型ウイルスの感染を危懼する注文主から、過剰な警戒や心ない対応をされる配達員も増え、関係者は「物流は社會にとって重要な仕事。どうか理解してほしい」と訴える。
配達時間の希望多く
「大型連休が終われば少しは楽になるかと思ったけど、忙しさは変わらないどころか、配達時間の希望が多く対応しきれない」。大手運送會社の札幌市內の店舗でドライバーを務める男性(44)は通常の倍の1日160件近い配達をこなし、5月に入って休日は1日のみ。同じ支店の20人近い他のドライバーもほぼ全員毎日出勤する。「以前は配達の途中でコンビニに寄って晝食も買えた。今は出勤前に買わないと、食べられないことも多い」と嘆く。
ストレスの矛先に
配送量が増えたことに加え、感染予防のため出社する社員の人數を減らすなどの対策を取った結果、荷物が指定した日付や時間帯に屆かないケースもある。
大手運送會社の札幌市內の営業所に勤めるパート女性(55)は「3月半ばごろから苦情や問い合わせが急増した」と漏らす。新型ウイルス感染拡大でストレスを抱えるせいか、客に「待たせやがって」「なんで時間を守れないんだ」などと怒鳴られることも多いという。
感染拡大の不安は、配達員にも向けられている。
「ウイルスを家に持ち込まないで」。大手會社の下請けとして札幌市內の荷物を配送する男性(38)は、ここ1カ月間で、何度か客にこう言われた。配送方法に玄関での受け渡しを指定しながら、玄関のドアを開けた客に「ちゃんと消毒してるのか」と、いきなり除菌スプレーのようなものを吹き掛けられたこともあった。「なんでこんな目に、と悔しかった」。ドアの隙間から奪い取るように受け取り、サインせずにドアを閉める客もいた。
毎朝の検溫や消毒、マスク著用の徹底など最大限の予防策を取る。「外出できず、困っている人のためにと思って頑張っているが、心が折れそうになることもある」と漏らした。