1940年代。ある食品會社が、ケーキミックスの粉を発売したそうです。水に入れてかき混ぜ、オーブンに入れるだけでケーキを作ることができるという、當時としては畫期的な商品でした。
しかしこの商品、味には問題ないのに、あまり売れなかったそうです。なぜか?
その原因は、作るのがあまりにも簡単すぎて、母親が子どもに出すときに「ママが作ったケーキよ」とは言えないというものでした。
そこで、食品會社はケーキミックスにある改良を加えました。
粉から、卵と牛乳を抜いたのです。そうすると、母親は卵を割り、ミルクを量って入れないといけません。こうした「ちょっとした努力」をさせることで、ケーキは「私のケーキ」となったのです。
ダン・アリエリーは、この話について「人々に努力をさせることで高い次元での喜びを提供している」と述べています。彼はこれを「イケア効果」と呼びました。
イケアの家具は、購入者が組み立てる必要があり、その手間の分だけイケアの家具を好きになる、と。それが名前の由來となっています。
彼の話からは、人間は「手間をかけたもの」に愛著を感じ、価値を見出すということが分かります。
この考え方を1on1に當てはめて考えてみましょう。
どれくらいの頻度で1on1を実施しようか?
部下とは何を話そうか?
これらすべての要素を上司側がコントロールしてしまうと、部下はお膳立てされた場に連れてこられたと思い、1on1との間に距離を感じます。
そうした場では、部下は上司に聞かれる質問に答えるという受動的な態度になってしまいます。
もし、1on1を業務上の進捗確認にとどまらず、可能性を広げるクリエイティブな時間にしたいと思っているならば、上司が完璧にコントールすることは逆効果になってしまう、ということが言えます。
部下がより1on1に積極的になってもらうには、1on1を共につくっていくことが必要なのです。
では、1on1を2人でつくる上司と部下の関係とはどのようなものなのでしょうか?
もし、上司が教える人、部下が學ぶ人という「教師と生徒の関係」だとどうなるでしょう。
この場合、上司には學びの場をつくる責任があります。上司は、1on1の場をできるだけ良いものにしなければと強く感じるのではないでしょうか。
そして、部下に行動を宣言させて終わらせよう、などと、1on1の落としどころを決めたりするかと思います。質問したとしても、上司側の「正しい答え」に導く誘導的な質問になってしまうかもしれません。
こうなると、部下が「ちょっとした努力」をする餘地が少なくなり、1on1は上司が用意した完璧なケーキミックスに近づいていきます。
では、上司と部下の関係がどうだったら、2人でつくる1on1が実現するのでしょうか。
非常に多忙にも関わらず、部下との1on1を長年にわたり続けている會社役員の方がいます。
その方は、1on1の目的を「部下の育成と自分の成長のため」と話されました。
私はてっきり部下育成が目的だと思っていたので、聞きなおしました。すると、「1on1では部下から學ぶこともあり、自分の糧になることが本當に多い」ともおっしゃったのです。
私は、この話に1on1を2人でつくっていくヒントがあるように思いました。
どちらか片方のみが學ぶのではなく、上司も部下も學ぶ場だと考えると、「どう進めると1on1がより良い時間になるか?」と、上司が部下に相談することも出てくるでしょう。
上司が、「自分も學ぶ」というスタンスになることは、「自分がすべてを準備しなければいけない」という思いを手放すことにつながるからです。
あなたの1on1は、どれくらい完璧でしょうか?
上司がすべてを用意せず、自身も學ぶ場として1on1の時間を部下と一緒につくっていく。
そうすることで、2人の対話は新しい可能性を生み出すかもしれません。